009『天使の羽根ペン』ショートショート(402文字)

 ふらりと立ち寄った骨董屋で、とてもキレイな純白の羽根ペンを見つけた。店主に聞けば、天使が落とした羽根から作られたもので、これを使って願い事を書くと必ず叶うという。
 さすがにそれは眉唾だろうが、物自体は見逃せない。多少値は張ったが、私はその場で購入を決めた。

 家に帰ると、檻の中の天使が虚ろな目で私を見た。彼女のボロボロの翼は真っ黒に汚れていて、頭の上の輪もヘドロのような汚れにまみれている。いわゆる堕天使だ。
「こんな檻に閉じ込めてすまない」
 堕天使は時として人間を害することもある。それを防ぐためとはいえ、残酷なことをしてしまった。
 買ってきた羽根ペンを彼女の翼に移植しようとして、その前に、店主が言っていたことを思い出した。
「……やるだけやってみるか」
 私はペンでこう書いた。
 彼女が元の天使に戻れますように。
 そして、羽根ペンを彼女の翼に移植した。
 純白の羽根は、みるみるうちに黒く染まっていった。

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