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親を叱りつける

認知症の症状の出方って、正常だったときの人格が如実に反映されるんだと思う。いい人はいいところが残って、そうじゃない人はそうじゃないところがますます強調される感じ。
って私もそんなにたくさん事例を見たわけじゃないけど。

うちの母は本当にマンガのように記憶をなくしていく。
書くことは好きなので、物忘れを自覚するようになってからは自分の行動のすべてを時間とともにメモしている。
なので忘れてしまったらそれを見返せばいいんだけど、書かれていることに心当たりがないので不安になる。

母の目下の気がかりは田んぼと畑の草である。
田んぼのほうは貸した団体と連絡が取れ、新たにそこを借りたいというご近所さんと三者で話がほぼついている。
みかん畑の草は自分でまた別のご近所さんに頼みに行って承諾をもらっている。
ここ一週間ずっとこの話だ。

お父さんが一生懸命手入れした田んぼや畑が荒れていくのがつらくてたまらないらしいが、母自身はずっと外で働いてきた人なので土いじりはできない。だからせめて草をとってキレイにしておきたい気持ちはわかるが、庭の草取りと違って田畑の草取りはハンパじゃない。
だから人に頼むしかなく、そして手配は済んでいるんだが、母にとっては目の前の草が消え去らない限り何もしていないのと同じことなのだ。
そしてこの人は自分が思ったことはすぐ解決しないと気が済まない。
本当に始末が悪い。
もういっそのことうちに田んぼがあること、畑があることとまとめて忘れ去ってくれたらどんなに楽だろう。

朝の6時から夜の9時まで、繰り返しこの草の話で電話がかかる。
ときには「今はじめて言いました」みたいな口調で、次は泣きながら。
「もう草のことは言いません、ってノートに書いて!」とスーパーで買い物をしながら怒鳴る中年の私を見た人は、ああきっと親がボケてるんだろうな、もっと優しくすればいいのに、と思っているだろう。私も逆の立場ならそう思う。
ええおっしゃるとおりですが、私もそこそこがまん強いとは思うんだが親のことになるとこんなにも許せないんだ、と実感する。

昨夜は寝る前に「もう電話しません。」と謝りの電話がかかり、今朝は「今日は東京で仕事ですね、気をつけて」となんでそこだけ覚えていたのかと驚くようなLINEがきた。
が、30分後また草の話で電話がかかる。
さすがに1回目だしちょっと反省はしたっぽいので、今日は仕事で電話がとれないからね、と言い聞かせて切った。
が、また1時間後に同じ話で電話してくる。自分でもかけた記憶があるし、「もう草の話は済んだ」と書いたメモがあるのに、忘れて不安で「助けて」と電話してくるのだ。

私が助けて欲しいよ。
「もう田んぼや畑のことは私は一切知らん、弟に電話して!」と怒鳴って電話を切り、着信拒否にした。
そしてわぁわぁ泣いた。50過ぎのおばさんがねこを抱いて泣く。
ねこも逃げた。
本当に情けない。

義妹に「今日は仕事で電話出られないから、そっちに行くかもだけどよろしくね。」とLINEしておいた。
でもね、面倒なことは弟夫婦には頼まないんだよ。知ってる、知ってるんだ。
悲しいなあ。

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