残された時間の選択 #5
わたしが彼に出会ったのは、夕暮れ時のカフェだった。目の前には、ノートを広げる彼がいる。そこには、計画的に未来を描く線が引かれていた。しかし、わたしの目には、その線がやけに不安定に見えた。
「何かを探しているの?」わたしが尋ねると、彼は一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返してきた。「探しているわけではないよ。ただ、どう生きればいいのかを考えているだけさ」と彼は答えた。
わたしはその答えに少し戸惑いながらも、「あなたにとって、幸せな生き方って何かしら?」と問いかけた。彼は少し考え込んでから、「それは…」と言いかけて言葉を飲み込んだ。
「僕にとって、どういう時間が本当に幸せかどうかは、正直わからないんだ。君は仕事をしているときが幸せそうに見えるけど。」と彼は続けた。
わたしは、彼の言葉に何かを感じた。「幸せな人生ってきっと、自分にとっての幸せな活動が増えることだと思うの。だから、その活動をもっと明確にして、意識して過ごすことが大切なんじゃないかな」
彼は黙ってわたしの言葉を聞いていたが、その目には何かが映り込んでいた。
「そうだね、残された時間を考えると、今のままではもったいないかもしれない」と彼は静かに言った。
わたしは微笑んで、彼の計画表に目を戻した。「それなら、その計画にも、あなたの幸せを反映させた方がいいんじゃない?」
彼はしばらく黙っていたが、やがて「ありがとう」とつぶやいた。その声は、心の底からのものだった。
わたしは、彼との別れ際に自分自身に問いかけた。「わたしにとっての幸せな時間とは?」そして、足早に仕事場へと向かった。
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