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何度でも。#10

朝から降り続いていた雨が、夕方になってようやく止んだ。カフェの窓から見える景色は、灰色の雲と濡れた路面が光を反射して、少しだけ幻想的な雰囲気を醸し出していた。わたしは、温かいカフェラテを手に、窓越しにその景色を眺めていた。

ふと、彼のことを思い出す。あの人との出会いは偶然だった。友人の集まりで初めて顔を合わせ、気がつけば何度も会うようになっていた。彼はいつも穏やかで、わたしの話を静かに聞いてくれる人だった。

しかし、わたしたちの関係は、いつしか歪み始めた。彼の些細な言動が気に障り、わたしの不安が過剰に反応してしまう。お互いを理解しようと努めるものの、言葉がすれ違うことが増えていった。何度も、もうこれ以上続けるべきではないのではないかと思ったが、その度に彼のことが頭から離れなかった。

わたしたちは、何度も喧嘩をした。そして、その度に別れ話が出たが、いつもその後でまた話し合い、やり直そうと決めた。それでも、問題が完全に解決することはなく、再び同じところでつまづいてしまう。

「こんなに何度もやり直そうとしているのに、どうしてうまくいかないんだろう?」わたしはそう思い悩むことが多くなった。だけど、彼と過ごした時間が頭をよぎり、その温かさを忘れることができなかった。彼もきっと同じ気持ちだったに違いない。

そして、ある日、わたしたちはついに大きな喧嘩をしてしまった。今度こそ終わりだと思った。お互いに疲れ切ってしまっていた。でも、離れた瞬間に、わたしは強く感じた。やっぱり、彼がいないとダメなんだ、と。

別れた後の数日間、わたしは何も手につかず、ただ彼のことばかり考えていた。もし、あの時もう少しだけ頑張っていたら、違う結果が待っていたのではないか?このままやめるのは簡単だけど、粘り強さが必要なのは、今かもしれない。そんな考えが頭を巡り、心に重くのしかかっていた。

雨が止んだ夕方、わたしは決心した。もう一度、彼と話をしてみよう。何度失敗しても、諦めたくない。彼と過ごした日々が、すべて無駄だったとは思いたくない。

彼の家の前に立つと、心臓が激しく鼓動を打った。躊躇いながらもインターホンを押すと、少しして彼がドアを開けた。彼の表情は驚きと、少しの緊張感に満ちていた。

「また会いたいと思ってた」と彼は静かに言った。

わたしは彼の言葉に驚いたが、同時に安堵した。「わたしも、もう一度話をしたかった」と答えた。

外に出て、二人で少しずつ歩きながら話をした。何度もすれ違い、何度も失敗してきたけれど、それでもお互いに諦めきれない気持ちがあった。何度やり直しても、またぶつかるかもしれない。でも、それでも構わないと思った。何度でも、彼と向き合いたい。

わたしが「わたしたちは、きっとまだ終わってないよね?」と言うと、

彼は少し考えてから頷いた。「うん、僕らはまだ何度でも挑戦できると思う」

雨上がりの道を、わたしたちは再び並んで歩き出した。その道がどれだけ険しくても、何度でもやり直せるという強い意志が、心に宿っていた。

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