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第1回 東大博士の農家がブロッコリーの病気について調べてみた!〜2戦2敗、2024年こそリベンジ〜

「ふりかえるーと、いつもびょうきーが、まんえんしてたー」
※藤井フミヤ TRUE LOVEの曲調で

新規就農してから、2回目のシーズンが終わりました。

「さいこうファームの主力農作物はブロッコリーです」
と言ってはいますが、僕の中の藤井フミヤが歌っている通り、この2年を振り返るといつも病気が蔓延。作付け面積は一番大きいのですが、収穫量は…。

▼1年目

▼2年目

特に2年目は、1年目を踏まえて「ブロッコリー、ゼッタイ、マモル!」と意気込んでスタートしただけに、悲惨な状態となってしまった畑を前にして、絶望したのはいい思い出です…。いや、いい思い出ではないです。

「あぁ、大学で植物の遺伝子ではなく、植物の病気を研究しておけばよかった…」

いつまでも悲嘆にくれる僕。

「まぁ、まだ2年目だし、いい勉強になったと思って次頑張ろう!」

いつだって前向きな幸枝さん。

そうだよな、嘆いていても仕方ない。やるしかないよな!

ということで、まずはブロッコリーの病気についてしっかり調べてみることにしました。記念すべきCORTEVAさん協力企画第1回目はブロッコリーの病気リサーチです!

孫氏先生も言っている「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」なのです!

以下の文章では、僕が調べたブロッコリーの病気の全種類、そして、それらがいつ、どこで、どんなときに、どのようにブロッコリーに襲いかかるのかを調べてまとめています。ブロッコリー新規就農者の同士のみなさま、ブロッコリー好きのみなさま、少々長いですが、お付き合いくださいませ!文末には参考にした資料もリンクしてあります!


たくさんあるよブロッコリーの病気

まずは彼の種類を知らねばということで、どんな病気があるのかをリサーチ。今回の参考文献はすべて文末にまとめています。

僕がこれまでの経験でなんとなく知っていた病気は、

  • 初年度の大敵「黒すす病」

  • 暑くなったら俺の天下よ「軟腐病」

  • 黒すす病ばかり防除して僕の存在を忘れていないかい「べと病」

の3種。しかし、調べてみるとあるわあるわ。

<ブロッコリーの病気一覧>
黒腐病 ※1
黒斑細菌病 ※1
花蕾腐敗病 ※2
軟腐病 ※1
べと病 ※1
根こぶ病 ※1
苗立枯病 ※2
黒すす病 ※2
菌核病 ※2
(特にした参考したHP)
※1、タキイ種苗 HP 病害虫・生理障害 ブロッコリー (トップページヘのリンク以外は禁止でしたので、「タキイ種苗 ブロッコリー 病気」で検索してください)
※2、朝日アグリア株式会社 種苗部 ブロッコリー生理障害・病害虫ver3
病気の様子(写真)は以下の3つが充実してました!
診断に役立つ 埼玉の農作物病害虫写真集 ブロッコリー病害虫の目次
ファンタジスタ 病害図鑑 ブロッコリー
諏訪農業改良普及センター 2019,8作成版 ブロッコリーの病害虫

ブロッコリーってこんなに病気に囲まれているのか、四面楚歌どころの騒ぎじゃないな。僕らはこんなさまざまな病気たちからわが子を守り通せる日が来るのだろうか…。

今回調べてみただけでも9種類あったブロッコリーの病気。これらは病原の特徴によって大きく2つの軍団に分かれる。それが細菌軍と糸状菌軍だ。細菌はバクテリア、糸状菌はカビのことだと言っていい。今回見つけた病気たちを分類してみると、

<ブロッコリーの病気の2つの軍団>
細菌軍
:黒腐病、黒斑細菌病、花蕾腐敗病、軟腐病
糸状菌軍:べと病、根こぶ病、苗立枯病、黒すす病、菌核病

細菌と糸状菌では増殖の仕方や基本的な細胞の構造が違っている。
細菌は細胞分裂で、糸状菌は細胞分裂で菌糸を伸ばしたり、胞子を飛ばしたりして増えていく。また、細菌は単細胞生物で核を持たない原核生物に分類され、糸状菌は多細胞生物で核を持つ真核生物に分類される。

細菌と糸状菌では体の作りが根本的に異なるので、対応策はこの2つでかなり違うんじゃないかな?と予想できる。それは、これから調べてみなければ。

一年目に大発生した黒すす病
花蕾にもでていた黒すす病、写真中央にポチッと黒いところがあります
1年目の反省を生かして、黒すす病の防除ばかりしていたらでてきた、おそらくべと病

いつ、どんな環境で、どんなところに発生するの?

うん、病気がいっぱいあることは分かった。

「よしよし、あとはこれら全部に対応できる農薬を探すだけ…」

しかし、まあ、予想はしていたけれど、どの病気にも効くよっていう万能薬はなさそう。「いつだってこれさえ撒いておけば大丈夫!」という農薬があれば絶対買うんだけどなぁ。

とはいえ、病気には出やすいタイミングや出やすい環境があるらしい。実際、さいこうファームのブロッコリー畑にもいつも同じ病気が発生しているわけではなかった。

それじゃあ、それぞれの病気の出やすいタイミングを調べてみなければ。

<病気の出やすいタイミング>
黒腐病:涼しい時期に出やすく、大雨や強風の後に多発。春と秋冬に多く、特に秋が多い。
黒斑細菌病:厳寒期と盛夏を除いた期間。長時間の雨天で多発。
花蕾腐敗病:10〜20℃の長い曇雨天で多発。発蕾時に曇天や降雨が続くと多くなる。
軟腐病:高温期に多発。土壌水分が多くて、空気湿度も高い条件で発生しやすい。
べと病:10〜20℃の比較的低温で、日中温度差が大きく湿度の高い時期に多発。
根こぶ病:9〜30℃で発生。最適温度は20〜24℃。長日条件。酸性土壌。水分が多いほうが発生しやすい。
苗立枯病:苗に発生。土壌が過湿条件。
黒すす病:15〜20℃の気温と長時間過湿条件。
菌核病:15〜20℃で多湿が続くと発生。

情報源によって表現方法にばらつきがあるけれど、ブロッコリーの病気はざっくりと暑いときに出やすいものと涼しいときに出やすいものに分けられることが分かる。

<温度条件と病気>
暑いときに出やすい
:軟腐病
涼しいときに出やすい:黒腐病、花蕾腐敗病、べと病
暑くも寒くもないときに出やすい:黒斑細菌病、黒すす病、菌核病
気温に影響されない:根こぶ病、苗立枯病

ふむふむ、暑いときに出やすいとされるのは軟腐病だけなのね、意外。軟腐病の影響が強すぎるから暑いときは危ない気がするのか。そして、もう1つの特徴で分けてみる。

<湿度条件と病気>
湿度が高いときに出やすい
:黒腐病、黒斑細菌病、辛い腐敗病、軟腐病、べと病、苗立枯病、黒すす病、菌核病
乾燥しているときに出やすい:特になし

すべて、湿度が発病しやすいのか。実感としても雨が少なくて乾燥しているときの方が病気が少なかったけど、やっぱりそうなのね。雨、怖い。

新規就農研修最後の年に植えたブロッコリー苗。
ブロッコリーって砂漠のような畑でも意外とたくましく成長してくれますよね。

病気はどこからやってくる?侵入経路を探れ

雨が多かった今シーズン、病気が多発したのは湿度が高いせいだったのだろうなぁ。とは言え、先輩農家さんはさいこうファームより病気の発生を抑えていたよなぁ。これってどういうことなのだろう?今度は病気の侵入経路を調べてみる。

<病気の侵入経路>
黒腐病:根の傷、雨滴による跳ね上がりで茎葉の傷や水孔から感染。虫害痕からも感染する。被害残渣とともに土壌中で生存。
黒斑細菌病:生育の衰えた葉に発生、雨の飛沫で伝播する。植物残渣とともに土壌中で生存。
花蕾腐敗病:降雨による土跳ねなどによって病原細菌がブロッコリーの花蕾に付着して発病する。
軟腐病:雑草根圏に存在する土壌常在菌。潅水や降雨による土壌の跳ねあがりによってブロッコリーに付着する。傷口や水孔などから体内に侵入する。虫害痕からも感染。
べと病:純寄生菌でアブラナ科植物に寄生している。空気感染で伝播する。植物残渣や土壌中に潜む。
根こぶ病:土壌伝染病。宿主植物の根に寄生する以外は増殖できない。土壌中で数年間生存。適度な温度と水で宿主の根に到達し感染。
苗立枯病:侵入経路について明確な記載はなさそう。
黒すす病:侵入経路について明確な記載はなさそう。
菌核病:侵入経路について明確な記載はなさそう。

調べてみると、雨などによる土跳ね、植物にできた傷(風、管理作業、虫害)、葉っぱにある水孔、空気感染などのルートがあるみたいだ。また、糸状菌系は侵入経路について明確な記載はなさそうだった。明確な侵入経路がなくても感染する可能性があるということなのかもしれない。

これらのことから考えると、先輩農家さんと比べて病気がさいこうファームの病気が多そうだった原因は、

<さいこうファームの病気の原因?>
・うまくカルチがかけられず、ブロッコリーを傷つけていた。
・食害が大きいイモムシ系はかなり気をつけていたけど、食害が目立たないカメムシ系はあまり気にしていなかった。
・雑草が多く繁茂していた。
・雨を意識した防除ができていなかった。
・病気に掛かった作物残渣の処理ができていなかった。(よく書かれている、病気に罹った植物は畑の外に捨てるって本当にやっている人いるの…?)

うん、たくさんあるなぁ…。

僕があまりにカルチでブロッコリーを傷つけるので、
2年目の後半に急遽購入したみのる三輪にカルチを取り付けた作業機。
来年こそは序盤からこれをこまめに使って雑草を抑えたい…。

病気の少ない、夢の畑を目指して!

孫氏先生いわく「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」。

今回調べてみて「彼」についてはある程度知ることができました。

さいこうファーム的に一番気になったのは、2年目に大発生した軟腐病。やはり暑くて湿度が高いときに発生しやすい。そして何より、「雑草根圏に存在する土壌常在菌。虫害痕からも感染」。ああ、どっちも思い当たりすぎる。

できる限り除草しようと頑張ったけど、だんだんと手が回らなくなって、雑草だらけになってしまった。ブロッコリーに明らかな被害を与えるイモムシ系の防除は徹底していたけれど、ちょっと吸汁するくらいのカメムシ系はそこまで気にしていなかった。

マキバカスミカメ、結構いたよなぁ。

やっぱり雑草はできるだけ抑えないとなぁ、雑草だらけだと湿度も高まるだろうし。カメムシ系、次のシーズンは見てろよぉ。

次回は「己」を知りたいと思っています。農家にとっての「己」。その重要な要素である、野菜を守る盾「農薬」について、専門家に話を聞いてみる予定です!

1月に公開予定です。ぜひ次回もお楽しみに!

<参考資料>
病気全般について参考にしたもの
タキイ種苗 HP 病害虫・生理障害 ブロッコリー
※トップページヘのリンク以外は禁止でしたので、「タキイ種苗 ブロッコリー 病気」で検索してください!
朝日アグリア株式会社 種苗部 ブロッコリー生理障害・病害虫ver3
黒すす病について参考にしたもの
令和4年度(2022 年度) 普及に移す農業技術(第2回)
花蕾腐敗病について参考にしたもの
minorasu 【ブロッコリー栽培】軟腐病&花蕾腐敗病の防除方法!利用可能な農薬は?
病気の写真で参考になるもの
診断に役立つ 埼玉の農作物病害虫写真集 ブロッコリー病害虫の目次
ファンタジスタ 病害図鑑 ブロッコリー
諏訪農業改良普及センター 2019,8作成版 ブロッコリーの病害虫
マキバカスミカメの写真
北海道HP 農業研究科(ビジュアル資料6 「メロン害虫写真集12・マキバカスミカメ」)

このnoteはコルテバ・アグリサイエンス日本株式会社さまの協力を得て作成しています!

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(登場人物)
僕:東京大学で農学博士取得後、ベンチャーで8年勤務。その後、北海道で新規就農。
幸枝さん:僕の妻。北海道大学で生命科学修士、僕と同じベンチャーで同期入社。2015年に結婚。

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