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オレンジ色の紐

私が中学生の時、よく傘が盗まれる事があった。
毎日のように誰かの傘が盗まれた。
私も盗まれた。
何度も盗まれるのでコンビニの安い傘しか買えず、買い直しても最終的に5回も盗まれた。
父親に怒らたが、怒られたからといって盗まれなくなる訳でもなく…最終的には教室に置くという措置が置かれた。

そんな話を高2の時に当時友達だった旦那に話した。
私としては笑い話になるかと思ったのだが、彼は寂しそうな顔をしていた。
12月のある寒い日、バイトが終わり帰ろうとすると彼がいた。
時々待っていてくれて、おしゃべりをしながら帰っていたのだが、その日は雰囲気が違った。
『今日雨降っているから、相合い傘をしにきた!雨の新しい思い出作りに来た!一緒に傘に入りませんか!』
私も傘を持っていたが、彼の傘にお世話になった。
しかし、次の日彼に連絡をすると学校を休んだとの事。しつこく問いただすと、私を濡らさないように私寄りに傘を傾け、彼自身は半分濡れていたらしい。
それに気付けなかった自分が恥ずかしくなった。
いつも彼が気付かないように気にかけていることを知っていたのに、また彼の優しさを見落としていた。
彼が回復して、私が買い物をしたいという理由で他学校の彼が学校に迎えに来た。
初めにどうしても言わなきゃいけなかった言葉を言った。
「ねえ!ちゃんと傘に入らないなら相合い傘しないからね!風邪ひいたら駄目だから!私が嫌だから!」
と初めて彼に強く意見を言った。
それまでまともに自分の意見が言えなかったが、これだけは譲れないと力を込めて初めて意見した。
しょんぼりする彼を引っ張り、何度も脳内で練習した言葉を口にした。
「ねえ、もう相合い傘しないの?ほら、大きい傘買いに行くよ!」
一気に元気になった彼を見て、私もこの人を大切にしなきゃと思った。
私が感じる彼のイメージカラーがオレンジだったので、幾つも店を回って大きいオレンジ色の傘を買った。
2人の傘という事で割り勘で買った。
これが初めての2人の所有物となった。
「じゃあ俺が持っておくわ。あ、傘大きいけれど、濡れないようにくっついて歩こうな。」
もう既にいつもの彼に戻り私を照れさせようと攻めてきた。


あれから数年が経ち、その傘は壊れてしまい処分してしまったが、処分する際傘をまとめる紐を切り財布に今でも取っている。
財布の中のオレンジの紐を見るたび当時の大切な思い出に浸る私がいる。


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