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親の七光り!?2代目社長もツラいよ...

私が防衛大学校を中退して慶應義塾大学に再入学した時に最も驚いたのが、学内に社長令息や社長令嬢がとても多かったことだ。慶應はまぁ、そういう人たちが多いのだろうなというイメージはあったが、それはまことだった。前年に在籍した防衛大はもちろんのこと、高校でも中学でも、こんなに"親が社長"比率の高い環境は初めてだった。彼ら彼女らはいわゆる"ボンボン"や"オジョー"。私のような奈良の田舎侍であり、防衛大で自衛隊教育を受けていた人間からしたら、それはもう育ちの良さが際立っていた。下からエスカレータで上がってくる内部進学組は勿論のこと、外部組でもセレブな高校に通ってた人が多かったように記憶している。

いっぽう粗にして野な私は、そんな彼ら彼女らを羨望の眼差しで見つめ、一緒に机を並べられる事に内心いささかの興奮を覚えてたりしていたわけだが、いま思い返すと、本当に皆んな大変なプレッシャーを受けていたんだなぁと思う。

理由はシンプルで、みんな家業を継ぐ運命を背負っているからである。

「次期社長」なんて聞くと、将来を約束されていて、なんだか羨ましく聞こえるけど、これは断言できるが完全に逆。「いつかは会社を継がなければいけない」それはつまり、自分が好む好まずに関わらず、多くの社員、そしてその社員の家族の生活まで、その双肩にのしかかってくるという事、そのプレッシャーは半端ではない。仮に自分が他の道に進みたい、好きな事をしたいと言ったところで、それは認められないか、認められても若いうちだけの期間限定の暫定措置だ。このあたりは、政治家の息子もそうだった。いつかは継がなければならない、というのは親は勿論のこと、地元の多数の支援者が意見を一致させるところ。そのあたりの不自由さは、学生時代、野武士同然の私には理解の及ばざるところだった。

私自身は自分で創業した経営者だけど、創業の苦労も、2代目社長の皆様には比べたら.....と、つねづね思う。私はゼロから創業したので、自分の好きな事業を始め、好きな人材を採用してきた。言わば何もない更地に、気の合う仲間連中を集めて自分の理想の家を建てるようなものだ。もちろん苦労や困難もあるが、好きな事をやっている以上、どんなにハードでも仕事は楽しいし、自分が良いと思った人材だけを選抜して採っているから、人間関係で困る事はほとんどない。

これが事業承継の場合、往々にして先代の負のレガシーが付いてくるので、まずその複雑に絡み合った糸を解きほぐす事から始めねばならない。更地に家を建てるのとは打って変わって、軍艦島や九龍城のような、ぐちゃぐちゃな建て物をどう整理するか、まずそれを検証から始める必要がある。しかも、そこにいる社員は皆ベテランで、下手をすると自分が生まれる前から会社にいる人もいる。中には「XXくんは苦労せずに社長に慣れて、良いね〜。我々はどんなに頑張ったってなれないからね」などとやっかむ人もいるかも知れない、というか確実にいる。そんな社員らを感化し、上手く指揮統率して、何十年ものあいだ社内に巣食ってきた病巣にメスを入れなければならない。

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「2代目社長」でググった結果↑。ひどい..........w どうしても先代と比較されるし、先代の古いものをスクラップアンドビルドしなければならないから、そこは本当に心中お察しする。まぁ実際に、親の築いた会社をあっという間に傾かせた家具屋姫みたいなケースもあるし、周りでも会社潰しちゃった後継ぎ社長も知ってるから、そこは一概には言えないけど、創業家が経営に関わる事で、その企業のビジョンやミッションに確固とした背骨が通される事は少なくない。トヨタ自動車の豊田章男社長は、もちろんスゴい社長だが、章男社長の存在そのものが、「トヨタ」というブランドを体現している。章男社長が英語で話す際の「We」とは、まさに「TOYOTA」の歴史を象徴していて、これはサラリーマンとして出世競争を勝ち抜いてきた社長が如何に優秀であろうと、絶対に真似のできない業。サントリーホールディングスでは、ローソンから来た新浪剛史氏が社長として現在リリーフ登板中だが、数年後には創業家の鳥井信宏副社長が社長に就任すると目されている。サントリー社内での創業家の求心力は、圧倒的に強いものを感じるし、「サントリー」という、消費者を魅了してやまないブランドを構築するうえで、創業家がひとつの大きな要素になっていると思う。

で、冒頭で述べた俺の同級生の話に戻るけど、彼らは皆んな、小さい頃から組織を指揮・統率するとはどう言う事なのか、幼少の頃から教育されている。それを「帝王学」と呼ぶかどうかは分からないが、自分が仕事をすると言うことと、他人に仕事をしてもらうと言う事は、根本的に違う。それはまさに肉体の使う筋肉が違う、或いは脳内の使う分野が違うと言って良いほどに違う。それを身を以て叩き込まれているというスゴさは、自分も経営者になって強く感じる所。


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