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大企業で疲弊してるなら、会社買いませんか。

エリートが疲弊している。子供の頃から神童と礼賛され、厳しい受験競争を勝ち抜き、周囲からの羨望の眼差しをほしいままにしていたはずの人たちが、大人になって「社畜」と揶揄され、大企業で強烈なストレスに晒され、苦しんでいる。いっぽう、幼少期にはろくに勉強もせず、放蕩の限りを尽くし遊び呆けていた人たちが、今になって起業したりYouTuberになったり、一躍脚光を浴び、成功を収め、自由に生きている。子供の頃、受験エリートが小馬鹿にしていたはずの人たちが、いつの間にか皆からチヤホヤされ、逆に努力して一流大学から一流企業に入ったエリートが、リスクを取らない臆病者のようにあつかわれる。「努力は報われる」とは、ウソだったのか。キリギリスは永遠に自由を謳歌し、アリは死ぬまで苦労に苦労を重ねるだけなのか。

「アカデミックスマート/ブックスマート」と「ストリートスマート」という言葉がある。頭がいい人のタイプには2種類いて、アカデミックスマートは勉強が得意で、高等教育を受けた所謂エリート、ストリートスマートは、学歴はないが実践を通じて知恵やノウハウを構築していくタイプ、という意味だ。アカデミックスマート、は与えられた問題を素早く解くのは得意だが、自ら問題を設定する事は苦手だと言われる。本当にそうだろうか。頭の良いエリートは、何が問題かは既にわかっているのだ。わかっているのに、リスクに怯え、周囲の目を気にして、見て見ぬふりをしているだけだ。

岡本太郎氏は、著書「自分の中に毒を持て」の中で、「人間は無目的に、無条件で命を燃やし、爆発するべき」と説いた。つまり、他の動物たちと同じように、本能に向き合い、命を懸けて生きる。これを岡本氏は「爆発」と表現する。しかし不思議なことに、我慢と忍耐を重ねることに慣れてしまったエリートは、この「自分の本能に従って生きる」という、自然界に生きる野生動物にとっては当然の事が、全くもって不得手だ。空を飛べる翼があるのに、絶壁から下を見下ろしてぶるぶると震えている。学生時代には自由を謳歌していた人たちが、就職し、結婚して、子どもができ、家や車をローンで買い、毎朝すし詰めの満員電車に吸い込まれる日々を送っている。守るべき者の為にがんばる、尊い事だ。ただ、その為には自由を犠牲にして、自らの羽をむしり、牙を折るしかないのだろうか。

日本人が大好きな「忍耐と辛抱」という美徳は、実は明治時代には富国強兵のため、戦後は経済規模拡大のため、量産型エリート生産を目的としてつくられたレトリックである。これは物質的経済成長のためにはとても効率良い考え方だったが、逆に金太郎飴のような人材を大量量産してしまった。江戸時代の日本は、身分に制約のある封建制度にあって、人々は驚くほど自由であったし、「百姓」とは100の姓=仕事、中国語でも「老百姓lǎobǎixìng」というが、つまり昔の人々はその時々で自由に仕事を替えていた。明治維新以来150年間続いた右肩上がりの成長が終わった令和のいま、この「辛抱と忍耐=美徳」という昔ながらの考えが、物質的豊かさよりも精神的豊かさを希求する時代の潮流に全くマッチしていない。結果として多くのエリートが、行き先を見失った浮舟のように、流れの中で漂流している。

大企業でストレスに苛まれ、社内調整などつまらない仕事の繰り返しで消耗しているブックスマート、アカデミックスマートと言われる人たちに足りないのは、本能に正直になること、自分の中に毒を持つことだ。NewsPicksを始めとした若者向けの経済メディアは無責任にも「起業しろ!」「リスクを取れ!」などと囃し立てるけれども、何もそんなにたいそうなことをする必要はない。買えば良いだけだ。企業の10年生存率は1割などという話もある通り、起業の大抵は失敗する。卵から孵化したウミガメが、砂浜を這ううちに海鳥に食われ、海にたどり着いたとて魚に食われ、ほんの一部しか親ガメになれない。それと同様である。それよりも、既に有る企業を承継した方が良い。

ゼロイチの起業はリスクも大きいし、事業を軌道に乗せるまでは相当の苦労をともなうが、承継であれば既に人員や取引先もあり、ビジネスモデルも確立されている。会社もウミガメも、ある程度の大きさになればそう簡単には死なない。そしてサラリーマンや公務員の大きな強みは「ちゃんとしてる」事。すなわち常識やマナーを備え、調整力に長け、しっかりと人間関係が構築できる事。このあたりのスキルは、じつは事業の遂行に極めて重要なのだが、起業家はこれらが欠如してる人がかなり多い(←自戒も含め)。しっかりとした職歴があれば、取引先や金融機関の信頼度も高まる。

安定して黒字なのに、後継者がおらず廃業を余儀なくされるケースは、これから日本全国で急速に増える。経産省によると、後継者未定の中小企業は全体の半分。事業承継ができなければ、10年間に計650万人の雇用が喪失すると言われる。日本では伝統的に、優秀な人はみんなサラリーマンや公務員になるが、今後は彼らがどんどん経営者にならないと、日本の産業が傾いてしまう。

去年あたり「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という本が良く売れたそうだ。元手がなくとも、空前の金余りが続く昨今、融資も受けやすくなっているし、事業承継には行政の助成もある。投資家から出資を受ける形で会社を買収することもできる。大企業のサラリーマンや公務員で消耗してるなら、さっさと辞めて社長になって、日本経済に貢献してもらいたい。

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