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恋愛サーキュレーション④

【「Miss&Mister Idol」という本を出版致しました! よろしければどうぞ!】

「高校3年ずっと闇だったし、大学も同じエスカレーターに乗って。現状を打破したくても打破できない、怖がっている自分がいて。大学卒業したら特にやりたい事もないから無難に大手メーカーの一般職に就いて。…あの時からずっと傷を引きずっているんです。」

「うん」彼女の気持ちがよく分かる。自分も特にパッとしなかったらよく目立つグループに目をつけられて、男子校だったから殴られたり、メガネ取られたりして散々だった。でも頭が悪いからどこにも行けず。

「あの時進学校に受かっていたら人生どうなっていたんだろうって。たらればだけど思うんです。」

「僕も中高一貫の男子校だったから周りから殴られたり、メガネ取られたりしていじめられたんだけど、でも頭が悪いからどこにも行けなかったよ。チャレンジする気概もなかった。チャレンジする気持ちがあるだけで偉いし、僕とは違うよ。」

「ありがとうございます。そんな事があったんですね。」

僕はかつて人を慰めた事があるだろうか。人生初の経験だ。今日は人生初の事が多い。今日は「LINE IDを交換する」という目標があったけどいいや。…でも、いい感じだし、どうしよう。…えいやっ!ダメだったらフェードアウトすれば良いだけの話しだし。

しばらく話が続く。そして僕は

「LINE」

「LINEやってる?」声が裏返ってしまった。「はいー、あっマッチングサイトメッセ出来るから交換してなかったですねー」「ああー、うん。よかったら…」「はいー、あたしスタンプいっぱい持ってて、早くスタンプ送ってしょうがないんですよー」「あ、そうなの。僕も銀魂持ってるよ、ジャスタウェイとか。」「あ、あたしも!最近声出るやつありますよねーワートリとか。でもあんまり使ってない。結局ブラウンとコニーちゃんばっかり。」「結局それが一番無難だよねー」

おお神よ…。僕は初めてアイドルじゃないLINE IDを取得した。何百万出されてもあげない!あとは次へのデートを誘い出す口実を作りたいが流石に限界だ。

「高知で行った事がない所、行ってみたい所ある?」随分定型文だよな。「えー、何か自然がよいな」「山とか?」「うん、森とか川とか」「いいねー、僕実は川から自転車で5分の所に住んでるから釣り始めたんだよ」「ええー、すごーい!釣りなんてした事ない」「釣った魚調理してくれる所があって、イワナを塩焼きにしたんだけど美味しかったよ。ボートから眺める景色も最高だし。」「ええー、いいなあー」「今度一緒に行かない?」は今までの全てが崩れ落ちそうで言えなかった。「僕東京にいる時は釣りなんてした事がなかったよ、インドア一直線!」と言って自分を誤魔化した。

 終始、これを「良い感じ」と言わずに何と呼ぶかぐらいのずっと穏やかな空気が続いた。お会計の時は彼女は花柄のかごバックから財布を出そうとしてくれた。「ああ、いいよいいよ」「ありがとうございますー。」と言って去った。茶番だけど必要な、一連の流れだ。前はこういうの嫌いだったけど、必要だ。

「今日は突然でしたけどありがとうございましたー」「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。」「いやあ、もう楽しかったです!」

こういう礼儀作法も必要だ。

でも来た時は不安そうな、何かあったような表情だった彼女と今はまるで違うように見える。頬がピンクで、幸せそうだ。

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