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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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2024年8月の記事一覧

【ショートショート】律儀な強盗

「えーと、A1ですか。ちょっとその大きさは扱ってないですねぇ」レジの女性店員は答えた。 「馬鹿言うな、A1の紙が一番大きい。出せ」サングラスにマスクの男は言った。 「もしよければA4サイズのコピー用紙ならありますけども」 「コレが見えないのか」男が右手に持つ黒い何かをかざした。彼女にはぼやけて太めのサインペンのように見えた。 「すみません、実はコンタクトが合わなくて新しいのにつけ直そうと取った所だったので。今裸眼で全然見えてないんです。でもアレですよね、ひらめいちゃってアイデ

【ショートショート】あるところ

やっとのことたどり着いた村で、これまたやっとのこと出会えた第一村人は気さくなおじいさんだった。 声を掛けると畑仕事の手を止め、わざわざこちらにやってきてくれた。 「若えの。こんな所までよう来なすったな。地図にも載っとらんのに」 「お仕事中すみません。お父さん、ここが昔話の冒頭『むかしむかしあるところに』で有名な、あるところ、なんですよね」 「そうじゃ。本当は安留所村という名前なんじゃが、不特定の場所をさす『ある所』と響きが同じだったもんですっかり勘違いされての」 「むかしむか

【ショートショート】結果屋

「兄ちゃん。結果いるかい?」 男は前方からそう声をかけられたが競馬新聞から視線は外さずに答えた。 「結果?予想の間違いだろ」 「おいおい、そんじょそこらの予想屋と一緒にするな。俺は結果屋だ」 顔をあげる。タバコを咥えた背の低い老人が立っていた。男の競馬新聞を指差しながら言った。 「そう簡単に信じないのは当然なこった。初回は無料でいいぜ、次のレース4-8だ」「ハハハ、大穴じゃないか。100円が10万になるぞ。嘘つくならせめてそれっぽい予想してくれよ。適当言いやがって」はいこの話

【ショートショート】均等の波

青年は黒縁のメガネをクイと押し上げると皆を見据えた。 「犯人は分かった。精巧なトリックもこの真実のメガネを素通りすることなんてできな……」 「ちょっと待て!」 トレンチコートの男が遮った。帽子を正すと窓際までゆっくりと歩を進める。皆が見つめる中、空を見つめながら口を開く。 「その前にこの屋敷の秘密を紐解く必要がある。今、真実が私に語りかけてい……」 「わたくし、気づいてしまったの」 婦人の透き通る声が広間に響き渡った。そして花瓶から1輪のバラの花を抜き取るとその香りを嗅いだ。