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ファンタジー

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吉田図工のファンタジー作品です
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2022年7月の記事一覧

【ショートショート】ドリームステイ

初めて訪れたその場所に私はただただ見惚れてしまった。 既視感のある風景でも空だと思ったらそれは海だった。 波しぶきの雲の合間を縫うように雨雲クジラが優雅に泳ぐ。 そして潮を吹き下げるとそれは地上に雨のように降り注いだ。 道端の植物も不思議な形をしており、そのどれもが焦げ茶色や黄土色をしていた。 一つを土から引き抜いてみると、カラフルな虹色の根っこが現れた。 釣られて土の中から羽の生えたモグラ鳥が飛び出し驚いて何処かへ飛んでいってしまった。 道なりに進むと1軒の民家が見えたので

【ショートショート】おかき語

送られてきた荷物の封をときながら、過ぎし日の夏休みの事を思い出した。 毎年学校が夏休みに入ると、母方の田舎に帰省するのが定番で 祖父母の家に着くと必ずおかきの一斗缶が居間の隅に置いてあった。 それを見て「じいじもばあばもおかき好きやね」と言えば 「おかき語に使うんよ」と母は素っ気なく言った。 祖父母は良き仲の裏返しで些細な事でよく喧嘩をした。 口喧嘩が始まりしばらくすると、どちらかが一斗缶をちゃぶ台に置く。 そして口喧嘩の口を噤むと、二人向き合って無言でおかきを食べ始めるのだ

【ショートショート】旋風の正体

良いことを教えてあげよう。 君もたまに見た事があるだろう。 街角で突如現れる落葉をかき混ぜる様な小さな旋風。 あれの正体はね…おっとちょうど孫が出掛ける所だ、少し待ってくれないか。 もう1人でおつかいに行ける様になったんだな。車には気をつけるんだぞ。 おっと、すまないね。 正体はだね…うん、あの方向だとあそこのコンビニの駐車場が良さそうだ。 ちょうど落葉が沢山あるだろう。 あの子が通りかかるのを見計らってこう降り立つと… 「あ!たつまき!」と男の子は旋風に向かって駆け込みキ