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チャッター克服までのプロセス

『「ちゃんとしなきゃ」から解放されて自分らしく成長する教師になる方法』を使った「教職論」の授業の受講者に毎回の授業で学んだこと、考えたことを書いてもらいました。そこからチャッターに関する記述を抜き出して時系列で並べてみると、本書をテキストとして用いてチャッターを克服するまでのプロセスがおおよそ六つに区分されることがわかってきました。

チャッターの自覚から克服に至る六段階

  1. 照合:テキストの自我発達段階毎のチャッターの記述との照合

  2. 言語化:チャッターを自分の言葉で表現

  3. 分析:チャッターが生じる背景や原因を分析

  4. 感情の自覚:チャッターに伴う感情の言語化

  5. 感情の観察:自分自身を観察する立ち位置での感情の言語化

  6. チャッターの克服:チャッターとそれに伴う感情の受容によりネガティブな思考や感情が湧いてきたとしても振り回されなくなる状態(=チャッターの手放し)

1.照合

照合は、テキストに示された自我発達段階毎のチャッターの例を見て、自分のチャッターがどれに当てはまるか照らし合わせる段階です。例えば、第4章の「子どもをどのように育てたいか」に関する自我発達段階毎の事例から自分は良心的段階に当てはまると考えたある学生は

「先を見越して計画し、その目標をきちんと達成する」という達成主義、完璧主義のチャッターがあると考えました」

と記述しています。この文末表現からは、まだ自分自身のチャッターというよりは、どこか他人事のように捉えているように感じられます。また、別の学生は

「自分も子どもたちも目標を達成しなければならない」「目標達成に向けて前向きに努力し続けなければならない」が自分にとても当てはまるものであると感じた。

この文末表現からは、テキストの記述に当てはめながらも自分の中にチャッターがあることを自覚し始めているように思われます。このようにテキストの記述に当てはめながら自分の中のチャッターを自覚し始めるのが照合の段階です。

2.言語化

言語化の段階では、テキストに示されたチャッターに関する記述から離れて自分の経験を基にしながら自分の言葉で自分のチャッターを表現するようになります。この段階からチャッターを自分事として捉えられるようになっていきます。ある学生は

授業で先生が話し合いの場で無理に発言させるようなことはしてはいけないとおっしゃっており、それを聞いた時自分の中で、話し合いの場で必ずなにかを話さなければならない。ちゃんと輪の中に入り、参加しなければならないという「ちゃんとしなきゃ」というチャッターが自分の中であったことに気づいた。

と授業の中で自分のチャッターに気づいたエピソードを書いてくれています。また、チャッターによって将来教壇に立った時に起こりうる問題についての回答に

自分の力を見せつけないと、と思うあまり、生徒から質問された際に「絶対に即答できるようにならないといけない、こんな質問で迷っていては生徒に不安がられる」というチャッターがさらに生まれ、即答できないと自分はダメだ。と思い、自分で追い込むあまりに本来の目的である「楽しさを伝える授業」から「絶対にミスせず、生徒の欲求に即時に答えないといけない固い授業」になり、本来の目的から大きく外れてしまう可能性が自分の中では一番高いと思われる。

というものがありました。これは、もしかしたら塾講師や家庭教師のアルバイトでの経験を踏まえて考えたものかもしれません。このように自分の経験と結びつけてチャッターを捉え、言語化できるようになると、チャッターが自分事になってきます。

3.分析

分析の段階では、自分事となったチャッターを客観視して分析するようになります。

親に自分の意見を言っても「子どものくせにまたなんか言っている」と、子どもであるという理由で正面から自分の意見や気持ちを受け止めてもらえませんでした。これがチャッターとなって自分でも気づいてないうちに、「子どもの意見は間違っていて、聞くに値せず、大人であり教師である自分の意見が正しいのだ」という激しい思い込みと自分の考えと異なる子どもの排除を行ってしまうのではないかと考えました。

この記述には、自分のチャッターが生まれた原因となる経験を捉えようとしている姿が見られます。また、自分の無意識的な思考の傾向を分析している記述も見られます。

憧れの先生のようになりたいという気持ちが強すぎる場合、憧れの先生のように立ち振る舞うことができない自分のことを責めてしまう可能性があると思った。また自分は物心ついた時から「○○であるならこうあるべきだ」という考えを無意識のうちに持ってしまうため、「言動や行動のすべてを憧れの先生のようにしなければいけない」と無意識のうちに考えてしまいそう

このように自分のチャッターの原因やチャッターが生み出す思考の傾向などを客観的に分析できるようになると、他者のチャッターが発動している状況にも気づけるようになっていきます。

4.感情の自覚

チャッターについての客観的な分析は過去にチャッターが発動した経験を捉えるものですが、現在起きているチャッターを捉えられるようになるとそれに伴う感情を自覚できるようになります。

私は授業中に私語が多い人を見るとイライラしネガティブな感情が延々とわき続けることがある。これは己の中にルールは守らねばならないというチャッターが原因だと思う。

周囲から認められたいあまり完璧主義になっていたり、理想のプランからずれることを恐れたりしている。

このように現在起きているチャッターにイライラや不安、恐れといったネガティブな感情が伴っていることを自覚できるようになってくると、自分の無意識の中にとても多くのチャッターがあってネガティブな感情をもたらしていることに気づいて、余計に不安になったりします。しかし、それだけ多くのチャッターを自覚できるようになったということは、チャッターの克服に近づいていることでもある、と前向きに捉えることが大切です。

親が自分と同じチャッターを持っていることが気になったり考えてはいけないと思うほど強くその感情を思い浮かべてしまったりする。

このような状況になったとしたら、次の感情の観察に進むとよいでしょう。

5.感情の観察

感情の観察は、自然に起きるものではなく、意識的に行う必要があります。現在起きているチャッターから生じる感情を観察することは難しいので、最初は過去のチャッターが発動した事例を思い浮かべて、そこから生じる感情を観察するところから始めるとよいでしょう。

自分の胸の中に小さな自分がいて、その小さな自分がイライラしている、不安を覚えている、と捉えてみましょう。そして、その小さな自分の隣に座って小さな自分に「今、イライラしてるんだね」「不安なんだね」と話しかけてみましょう。そして、チャッターの分析で捉えた過去の状況と現在の自分の状況の違いを客観的に見られる立場から小さな自分に「大丈夫だよ」と話しかけてみるとよいでしょう。

完璧主義のチャッターで相手が求める意見を言わなければという考えに陥ることがありましたが、そうなるのも私の個性の一つと認められるようになると意見を言うとき過度に緊張することがなくなり言いたいことを伝えられるようになりました。また、自分を認めることで相手にも否定から入らず心に余裕を持って接することができるようになりました。

このようにチャッターが発動したときの自分の感情をありのままに受け入れて、肯定的に捉え直すことができるようになってくれば、日常生活における人間関係にも肯定的な変化が見られるようになってきます。

6.チャッターの克服

最終的に現在発動しているチャッターに伴う感情を観察し、ありのままに受け入れられるようになれば、ネガティブな思考や感情が湧いてきたとしても、それに振り回されることがなくなります。これは、チャッターが一切なくなるというよりも、チャッターを手放した状態と言えるでしょう。

今回の15回の授業で感情の観察ができるようになったと思われる学生は受講者の数%程度かもしれませんが、授業後も継続して自分に向き合い続けることでより多くの学生がチャッターを克服して自分らしく成長する教師になることを願っています。


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