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かくして取締役は社内公募になった

サイボウズの取締役を社内公募制にしたことがニュースになり、Yahoo Japan のトップページにまで掲載していただきました。立候補して就任した17名の中に、新卒1年目や2年目の社員が交じっていたことも注目された理由かと思います。

たくさんのコメントをいただきましたが、残念ながら批判的な意見が多いようです。「新卒1年目で取締役の仕事が務まるわけがない」「一般従業員に責任を押し付ける制度だ」「実質的な支配者(私のこと?)がやりやすいようにしただけ」「不祥事が起きたときに責任を取れるのか」「目立ちたいだけのパフォーマンスだ」など散々です。

せっかくの機会ですので、今回はこの制度ができた経緯についてお話しいたします。ざっくりまとめると、

「全社的に情報共有を徹底したら、全従業員が取締役の機能を果たすようになった。その結果、法律上の取締役に期待することが減り、やりたい人がやれるようにした」

となります。

以下、詳しくお話しいたします。

サイボウズは、「キントーン(kintone)」「ガルーン(Garoon)」「サイボウズ Office」「メールワイズ」などのグループウェアを開発・販売する会社です。グループウェアとは「情報を共有」するソフトウェアです。メールのように宛先を選んでごく一部の人とやり取りするものと違い、組織の壁を越えてオープンに情報を共有するために使います。

サイボウズ社内でも、グループウェアをフル活用しながら、オープンに情報共有し、そしてオープンに議論する文化を作ってきました。

例えば、

取締役会だけでなく、事業戦略会議や本部長会議など社内の重要な会議は、従業員なら誰でもリアルタイムで視聴可能。会議の動画は保存して全社公開。細かい発言まで含めた議事録を全社公開。
使った経費は、ほぼほぼフルオープン。交通費、接待費、通信費に始まり、広告宣伝費、機材購入費なども誰がいつ購入したのか全社公開。私が高級料亭を使ったら、すぐ全従業員にバレます。
社内のキントーン上には、「日報」「議事録」「タスク管理」など各現場で開発・運用されている数多くの業務アプリケーションが全社公開されており、やり取りされるコミュニケーションの内容を含めて、検索すれば一瞬でアクセス可能。社内にもう一つのインターネットがあるような、バーチャル・オフィスを実現しています。

また、従業員一人ひとりが大きな権限を持っており、マネージャーが権限を振りかざして命令することはできません。

従業員は、受け入れ部門の承認さえあれば、いつでもどこでも自分の希望で異動可能。職務内容による制限はあるものの、働く時間の長さ・時間帯・働く場所を本人が自由に選択できる。言い換えると、マネージャーであっても部下の希望なしに異動や働き方を命令することはできない。
各本部長は、社長の承認を得ることなく全社レベルの意思決定ができる。(ただし、助言プロセスを通じて関係者に意見を求める必要がある。)

そして、これらの仕組みが形骸化しないための文化を醸成してきました。

従業員一人ひとりが自分の業務についての「説明責任」だけでなく、他人の業務に対する「質問責任」を負っている。気になったら質問しなければならない。聞かれたら説明責任を持って答えなければならない。
意見が衝突したときには、「問題解決メソッド」という社内の共通言語を用いて、建設的に議論しなければならない。

このような制度や文化を作ってきた結果、取締役会は最終的な確認の場になっていきました。誰かが問題を感じたその瞬間から、その問題について全社的に情報が共有され、関心のある人たちがオープンに議論し、その結果を最終的な確認として取締役会に持ち込むからです。これらのやり取りは監査役にも常にオープンです。

会社法で取締役の設置が義務付けられているのは、業務の執行が適切に実施されているか監視・監督するためだったり、意思決定に際して様々な見地から助言することだったりすると理解しています。

ほとんどの上場企業において、取締役会は月に一回程度開催され、限られた人が、限られた情報に基づき、限られた時間の中で監視や助言をしています。その結果、充実した取締役体制を擁していても、情報を隠蔽したり不正をしたりする組織がなくなりません。

しかし、サイボウズにおいては、全従業員が、いつでも、圧倒的な情報量を元に、相互に監視や助言をしています。また、他社から転職してくる従業員は年に100人程度。これは社外取締役が毎年100人ずつ増えているようなものです。サイボウズ以外で複業をした経験がある従業員は全体の3割程度おり、社外の視点を豊富に取り込むことができています。

こうなると、法律上の取締役がやるべき難しい仕事はありません。取締役会に出席し、議論の過程を確認して、議決権を行使するだけです。

そこで、法律上の取締役は、取締役という役職に就いてみたい人がやればいいんじゃないかという議論になり、今回の社内公募を実施することになりました。これから彼らは法律上の取締役として事務的な仕事をすることに加え、社内外から様々なフィードバックをいただくと思います。彼らの貴重な経験と成長につながると期待しています。

当然ながら、17名の候補者に対して、法律上の取締役が背負う義務や法的リスクなどを説明した上で進めています。ただ、これだけオープンな環境で、この17名がどのような重大な過失を犯すことができるのか、逆に想像するのが難しいです。

世界の多くの企業がそうであるように、昇進の最終ゴールが取締役だったり、半沢直樹みたいに上役が強行的に人事権を発動したり、密室で開かれる取締役会で決まったことが突然従業員に降ってきたり、頭がスーパー賢い社外取締役を並べてトップダウンで指示命令したりする会社をイメージしていると、サイボウズの取り組みは意味不明に見えることと思います。

私たちが意識しているのは、自律分散型の新しい組織です。誰もが情報を発信し、誰もがすべての情報に同時にアクセスできるインターネット技術を前提とした新しい組織モデルです。

私たちはこの15年間、もっと一人ひとりが幸福に、かつ効率よく働くために何ができるかを探求してきました。試行錯誤を繰り返しながら、自分たちなりの手応えを感じつつあったとき、「ティール組織」という本に出会いました。この本は、組織モデルの進化について書かれたものです。私たちはこの本に衝撃を受けました。私たちがやろうとしていたのは、まさにティール組織に書かれているような新しい組織モデルだったからです。

とはいえ、まだまだ試行錯誤は続きます。これからも失敗を繰り返すでしょう。そして、そのことも含めて積極的に社外に情報を開示していきます。この実験がみなさまのお役に立つ日が来ることを楽しみにしています。

チームワークあふれる社会を創るために、これからもサイボウズはチャレンジしていきます。

サイボウズ式から、今回の取締役の仕組みについての解説動画が公開されました。今回取締役を外れた山田理さんと新卒1年目で取締役に就任した岡田陸さんの対談です。面白いので、ぜひ併せてご覧くださいませ。


※ざっくりまとめのところを実態に合うように修正しました。(2021/03/30)

※法律上の取締役が担う業務の表現を実体に合うように修正しました。(2021/03/30)

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