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ショートショート【助手席のメガネ】

昨日の残業の後、彼から久しぶりに連絡が来た。
「今日時間できたんだけど。暇してたりする?」
いつもの居酒屋で落ち合う。なんとなく会社の愚痴を言い合うだけの1時間。そこから向かう先もいつも同じ。

彼に恋心を抱いていた時期もあったかもしれない。いま考えるとその感情すらも、恋愛を多くしてこなかった私の勘違いだったかのように思える。

彼と過した次の日は必然的に朝が早くなる。仕事の前に1度家に寄らなければ。
居酒屋の隣の駐車場に置いてある車に向かうまでの、少しの距離を2人で歩く。
コンタクトも入れていない。メガネのまま助手席に乗り込む。

彼と知り合って10年が経とうとしている。あの頃はどれだけ朝が早くても、メガネ姿で彼の前に立ったりしなかった。若い私のせめてものプライドだ。

朝の車内には会話はほとんどない。
「コンビニ寄りたいな」
「ああ、じゃあコンビニの前で降ろすね」

「また時間ができたら連絡するから」
「うん、またね」
いつも、それだけ。

爪毛さんの挑戦状を受けてみました!
#爪毛の挑戦状

また会いましょう。