駐在員が良く言うセリフ「私がいなければ現地の仕事が回らない」は正しい状態なのか?
こんにちは、よしです。先月、私の元駐在国であった「タイ」に出張に行きました。非常にタイトな日程でしたが、私がかつて3年半勤めていた製造現場にも顔を出し、当時苦楽を共にしたタイ人の仲間達にも会う事が出来ました。恐縮するくらい大歓迎を受け、またタイが大好きになってしまいました。さて、本日はそんなタイへの再訪を通じ感じた事を書いてみたいと思います。
自分がいなくても仕事が回っている安心感とちょっとした寂しさ
まず率直な感想なのですが、自分がかつて駐在していた職場に行くというのは変な気分です。日本でも転職経験がある人が前職の職場に行くと変な気分になるのと同様かもしれませんが、懐かしさや少し恥ずかしい気持ちもありました。
まず安心したのが、“自分がいなくてもしっかり仕事が回っている”という点でした。駐在していた3年半で現地メンバーと構築した仕組みがしっかり機能し、業務が滞りなく回っていた他、当時私が現地メンバーと一緒に立案した中長期の戦略や投資が着実に実行されていました。現地メンバーが「ちゃんとやってるよ!」と自信を持って答えている姿を見て、本当に嬉しい気持ちになりました。
一方で少し寂しい気持ちにもなりました。仕組みが不十分だった頃のバタバタ感を知っているだけに、あの時一緒に苦労した現地メンバーとのやり取りが遠い昔のように感じましたし、折角一緒に考えた戦略や投資も本来であれば一緒に実行して成果を共に喜びたかったと思った為です。
ですが、この姿こそ、私自身が当時駐在員生活の集大成としてタイに残したかった姿であり、日本へ帰国して少し落ち着いた今、改めて「良かった」と安堵していたところです。
私が過去に犯した駐在員としての失敗。「俺がいなけりゃ、現地の仕事は回らん」
少し私の海外での失敗を述べさせて下さい。私は海外駐在する前には日本をベースにしながら、インドネシアへ技術支援をしていました。技術支援を要約すると「生産性向上」を図る為に、設備のボトルネックを見つけ出し、そこを改善して「稼働率」を向上させ、生産計画に準じて製品を製造するという支援でした。初めての海外業務という事もあり、成果を出そうと朝から夜遅くまで躍起になって働いていました。
当時は出張ベースだったので、短期間で成果を創出せねばならず、現地メンバーへの依存はほどほどに、目に見える結果を出すため、自分と同行していた日本人メンバー達でゴリゴリ仕事を推し進めていました。その結果、成果はそれなりに数字で現れ、日本の偉いさん方々からそれなりに評価された事も覚えています。
短期間で成果も創出し、評価もされた為、海外業務に自信を持って日本へ帰国したものの、技術支援がなくなると途端に現地の稼働率は元に戻りました。「やはり、よしがいないとダメだな」と言われ、若かった当時は「自分が必要とされている感覚」を持ち、更にやる気を持って海外支援に邁進したものです。
もう一つケースを紹介します。
今度は出張ベースではなく、新会社・新工場を設立し、ゼロから50人規模の組織を形成しながら生産立上げから安定生産までを行ったベトナム(ハノイ)駐在時のケースです。異国の地での新会社・新工場の設立はそう簡単ではありません。ベトナム人を現地で採用しましたが、勿論日本人と仕事の進め方も異なり、こちらが期待する程仕事にきめ細やかさも無い為、私目線ではミスや落球が頻発しました。そんなミスや落球を防ぐ為に仕事の管理表(To do list)や細かな報告を求め「マイクロマネジメント」を実施しました。その甲斐あってミスや落球も激減し、紆余曲折ありながら、予定通り工場は立ち上がり、初回生産も無事に完了しました。
こちらも「ハノイという異国の地で新会社・新工場を納期通りにしっかり立ち上げた」という点に関しては日本でしっかり評価され、私は駐在員としての役目を果たしたと思われたのか、初回生産から安定生産に移行する前にシンガポールへ異動となってしまいました。
その後、この工場はどうなったか・・・。品質トラブルが頻発し、それに対処する方策も現地メンバーだけでは立案出来ず、ビジネスが停滞・・・。結局別の日本人を出張ベースで日本から呼び寄せ、私もシンガポールから都度サポートしながらトラブル対応を行いました。
この上記2ケースのアプローチは正解だったのでしょうか?海外駐在約8年経験後の今だから言えますが、これは典型的な海外での失敗事例です。
時々駐在員の方から「私がいなくなると現地の仕事回らなくなるんだよな~」という言葉を聞きますが、この言葉を聞く度に、かつての自分を思い出します。
気持ちは痛い程分かります。上述のように、私も目先の結果を追い求め、自分で仕事をゴリゴリ推し進め、優秀な人材が現地にそれ程揃っている訳ではないなか仕事を進めなければなりません。現地メンバーへの過度な依存は一時的な仕事の停滞にも繋がり、結果も創出しにくい状態になりやすいでしょう。
かといって自分自身で仕事をゴリゴリ進めても、現地メンバーは一見自分について来ているように見えますが、それは真のリーダーシップでもなんでもありません。納期や仕事の結果に捉われた自分は「現地のため」ではなく「日本(本社)のため」に働き、「現地メンバー」ではなく、「日本(本社)の偉いさん」の評価の為に働いていたのです。誰もそんな人を本当のリーダーと思わないでしょう。
徹底した「仕組み化」と現地メンバーへの「エンパワーメント」
そんな過去の失敗経験も自分の中で反芻しながら、タイに赴任後は徹底した業務の「仕組み化」を行いました。「人的ミスの大半は仕組みが無い事が要因である」という理念のもと、業務も人材育成もどんどん仕組みを構築していきました。時に現地メンバーのマインドや精神論を語る人もいますが、それも仕組みがある前提での話だと思っています(以下、過去のnote参照)。
それと並行して、現地メンバーへの「エンパワーメント(権限移譲)」を実施し、自分たちの頭で考えてもらいました。「日本のやり方」を一方的に推奨して、現地に取り入れるのではなく、キーパーソンを日本へ連れて行き、実際に自分たちの目で見てもらい、自分たちが良いと思ったものをタイ風にアレンジして仕事にも自分達で落とし込んでもらいました。そして結果は冒頭述べた通りです。現地で駐在員(私)がいなくても自立自走できていた姿を見れた事が、自分がやって来た事が正しかったかの答え合わせだったように思います。
勿論この手法は自分がゴリゴリやるよりも仕事の進捗は遅くなりますし、結果もすぐに創出されません。駐在期間がある程度決まっている駐在員としては焦りも感じるでしょう。かつ、何をやるにも現地メンバーを前面に立て、彼らが自信を持って仕事できるようにせねばならず、自分への直接的な評価には見かけ上なり辛いです。でも、改めてタイを訪問し、自分がやって来た事が間違ってなかったと確信が持てました。
駐在員の真の評価は遅れて現地からやって来る
駐在員の評価はいつ、誰にされるべきか?そんな問いを立てた時、人事制度上は「駐在してる今でしょ?」そして「評価は本社(日本)でしょ?」となりそうですが、私としては「駐在員の評価は、駐在員がいなくなった数年後」に改めてされるべきであり、その評価は「現地メンバー」から自然発生的に行われるのが「真の評価」だと思います。
「私がいなければ現地の仕事が回らない」という駐在員よりも「私がいなくても現地の仕事が回っている」という現地の状態をつくりだせる駐在員になれ!と駐在したての頃の私に言ってあげたいと思います。そんな事を思わせてくれたタイ再訪でした。
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