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駐在員が陥りがちな罠。現地社員のモチベーションを上げるために、社内コンペティションを導入すべきか否か?

あなたは海外現地法人で社員同士を競わせますか?

日本の企業に勤めている人は、一度くらいは社内・社外含めコンペを経験したり、営業の人達であれば、月間や年間の営業成績を競った経験があると思います。そして、その中で優秀な成績を収めた人達は表彰されモチベーションがアップし、また次も頑張ろうと思えるのです。一方、賞を逃した人達はその悔しさをバネに次は頑張ろうと思うのです。

 さて、これを海外で同じように実施したらどうでしょうか?

例えば、日本で良く見る風景の営業成績をオフィスでグラフ化したり、プレゼン優秀者に表彰や特別報酬を与えたり、社内活性化の為と思って、何か社員同士で競わせるイベントを企画したり等々。

ここで質問です。あなたが仮に私が現在勤務するタイのある会社の現地法人社長に就任した場合、同様な事を行いますか、行いませんか?それはなぜですか?


社内改善フォーラムで覚えた違和感について


これを紐解くために、一つタイでのエピソードを紹介させて頂きます。私の社内には「改善フォーラム」なるものが存在します。その名の通り、日々の改善成果を発表しあい、どの改善が優秀だったかを競う訳で、ここ数年このフォーラムは継続されています。ある違和感は、このフォーラムの中で「特別賞」なるものを付与した際に感じました。

日本でも良くある事だと思いますが、賞は3位までと決めていたものが、3位と4位の甲乙がつけがたい場合や、賞の獲得までは至らないまでも、会社の方針に合致していたり、ちょっと毛色の異なる発表を行い、審査員の記憶に留まった時に「特別賞」なるものを付与する事があると思います。

「人材教育」という方針を工場で出していた為、大抵の発表は「現場改善」を行い賞を獲得していたのですが、「教育改善」を行った発表があり、余りにも方針と合致していた為、審査委員長を行っていた私は「特別賞」なるものをその改善に与えたのです。勿論、特別賞を与えるに至った背景や趣旨はしっかり説明したのですが

その時の参加者及び受賞者から感じた若干の違和感や不穏な空気を今でも覚えています


トラブルは時として文化の違いから生じる

後日、参加者からのフィードバックは「特別賞」に対する苦言を含め、そもそも通常の「賞」を得た個人に対して、ここぞとばかりの苦言が噴出し、このイベント自身に対しても余りポジティブなフィードバックが得られませんでした。ちなみにこのフォーラムは既に過去数年行われています。そして今年私の意向で初めて参加者からのフィードバックを得るようにしてみました。

ヒントは宮森千嘉子さんと宮森隆吉さん共著書の「経営戦略としての異文化適応力」の中の、「ホフステードの6次元モデル」にあると思います。特に第3次元の「女性性/男性性」に着目してみたいと思います。ホフステードの6次元モデルの詳細は書籍をご覧頂きたいですが、完結に説明すると様々な「文化の違い」をスコア化したものになります。

そして第3次元の「女性性/男性性」とは

“競争原理の中で弱者への思いやりや生活の質を重視するか、業績、成功や地位を重要視するか”

をスコア化したものになります。

さて、日本のスコアは驚くべきことに男性性がダントツに強い1位であり、傾向として「業績重視の社会で成功者を賞賛」したり「家庭より仕事」を優先する傾向にあります。

一方でタイはオランダ、デンマークについで女性性が強く、「弱者を支援」「連帯、協力を重視」する傾向があります。そもそも論、競争を行い、秀でた人(個人)を賞賛する文化は薄く、「成果をあげられるのは自分の実力だけではなく、運や周りの助けがあってのことだ」と解釈されるのです。相対比較をすると、この競争原理や賞賛のされ方が、日本とタイでは圧倒的に異なる文化であるという事を理解しなければなりません。

異文化を理解した上で、どのような行動をとるべきか?

このようなスコアは、あくまで文化を理解する為の手引きのように捉え、自分自身の「異文化理解」に役立てるのが良いと思っております。

つまり、このような文化背景だからすぐに「改善フォーラムで賞を与えるはやめる」というのは拙速な判断であり、賞を与えるにしても、日本以上にクリアなクライテリア設定や事前の入念な説明、そして賞を与えた個人はあくまでチームの代表であり、「個人」ではなく「チーム」をしっかり称える事や、賞が取れなかった人に対してこそ支援を差し伸べることを意識するなど、自身のやり方、伝え方を変える必要があると思うのです。

異文化理解を更に深めるためにはどうすべきか?

このようなトライアル&エラーを繰り返す事でのみ「異文化理解」は更に深まって行くと思いますし、立ち止まらず行動とアカデミックな理論を行ったり、来たりしながら理解を深めて行くことが重要だと思います。

私もまだまだ勉強中の身ですが、謙虚に異文化に向き合い、自身の行動を適応させて行きたいと思っています。


参考
経営戦略としての異文化適応力

『経営戦略としての異文化適応力』著者宮林さんとの対談その2

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