「チャレンジとリスク」はオフセットの関係ではない(アウフヘーベンなものの考え方)

先般紹介した「コンサルを超える問題解決のと価値創造の全技法」で印象に残っていた、「アウフヘーベンなものの考え方」をベースに大学というフィールドを見つめてみた。
(詳しい書評はhttps://note.com/yoshi04225169/n/n980d824f4dacを参照ください)

アウフヘーベンとは、
選択と集中、ポジショニングを前提としたこれまでの理論を否定し、一見二律背反に見えるものも両方を取りに行くことを意味している。
ポーターのポジショニングをベースとした理論の次にくるものとして著者の名和先生が提唱しているものだ。
著書の中で具体例として、品質とコストについて語られている。
「品質を追い求めれば、その分コストはかかってくる」
品質とコストは二律背反の存在、という既存の常識となっている考え方だが、ここに「時間軸」を追加することで、「品質とコストはトレードオンの関係になりうる」ということだ。
つまり、短期的に見れば高品質製品を作るためにかかるコストは高くなる。ただ、長期的に見れば高品質品は顧客満足度、企業ブランド力を高めるため、最終的にそのコストはオフセットされる。というものだ。


こうしたアウフヘーベンな考え方を、私が今所属している大学という組織文化に落とし込んで考えてみようと思う。
よく大学職員の若手や中堅と話していると、「大学はなかなかチャレンジしにくい環境だ」「前例踏襲型の仕事の進め方が多い」といった声を聞く。
確かに大学で働いていると、新しいことにチャレンジする気概を持っている人が比較的少なく、「とりあえず昨年通りにやっていれば安全」というような声を聞くことも多い。

こうした声から感じられるのは、「リスクを過度に恐れる風土」があると思う。
確かに学生の個人情報、成績といった一生を左右するような判断を扱う組織では、何かがあった際のリスクが非常に大きくなるのは事実である。
つまり、「リスクを恐れるあまり、チャレンジしにくい」という考え方が大半を占めている。
言い換えれば、「リスクとチャレンジは二律背反のもの」というわけである。

ここで再度、アウフヘーベンにこの事象を見つめてみたいと思う。
確かに、チャレンジをすることは前例とは異なる方法を試してみることが多いため、何か失敗するリスクは大きいだろう。
ただそれは「単年」を見たリスクに過ぎず、「中長期的」に見た時のリスクをなんら加味していない。つまり、「何もチャレンジせずにひたすら同じことを毎年繰り返すこともリスクになり得る」のではないだろうか。
具体例を挙げれば、技術革新が進み、チャットボットやRPAなど、圧倒的な生産性向上を目指せるツールが出てきているにも関わらず、従来の紙資料での仕事の進め方をしていること自体がリスクになりうる、ということである。

日本の大学はグローバル化や少子高齢化の波で、今後淘汰されていく可能性が高い。そのため、どの大学も長期構想を描き、職員に期待される仕事も多角化・高度化してきている
そんな中で、従来の低い生産性の仕事の進め方をやり続ければ、当然期待される仕事はこなせず、大学としての競争力が削がれていくのではないだろうか。
さらに言えば、職員自身も低い生産性の仕事の進め方ばかりをやっていては、個人の職能進展もできず、社会全体から見れば市場価値の低い存在となってしまう。

大学視点でも、個人視点でも、チャレンジをしないことが中長期的なリスクになりうる、ということだ。
職員一人一人が、中長期で仕事を見つめ、チャレンジをすることでリスクヘッジをしていく。といったマインドセットに切り替えが必要になってきたのではないだろうか。

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