那智勝浦町昔懐かし話 第50話
第50話『寝台特急 紀伊』
はい、今年ももうすぐ終わりですね。今年7月頃から何かを残したい。自分の子供の時の事。生まれ育った那智勝浦町の事を文字にして残したいと、無性に思い出し那智勝浦町昔懐かし話として書き始め何と今回が第50話であります。初めの内は冗談で100話書くぞと言っておりましたが、まさか半分行くとは。これもひとえにひとえにそう、僕の努力であります。いやいや、皆様方のあたたかい励まし、いいね、コメントのおかげでございます。ほんま、書く方も書く方やけど、読む方も読む方で、ほんまありがとうございます。このお返しは、本での出版と言う形で代えさせていただきます。誰か本にして~。お願い。えっ前置き長いって。はいはい、分かってまんがな。それが、タケちゃんのええとこでもあるんでっせ。では、記念すべき第50話あなたとともにいって見よう。
「タケちゃん、風邪ひかんようにね。東京行ったらこの2万円ちゃんと先輩に渡すんやで。やったこと全部だしたらええからよ。着いたら電話しなあよ。じゃ、頑張っておいで」 そう言ってお母ちゃんは僕に茶色の2万入っている封筒を渡した。表におかあちゃんの鉛筆書きで「よろしく頼みます」と書かれていた。1981年2月僕は大学受験の為、紀伊勝浦発東京行きの寝台特急紀伊に乗り込んだ。午後7時34分発。「ああ、頑張るわ」
茶色の封筒を受け取り僕はそれだけ言った。ドアがしまり列車は走り出した。僕は、ホームに一人立つおかあちゃんをしばらく見つめ、そしてボストンバックと茶色の封筒を手に自分の席に向かった。東京へは、中学3年の時に修学旅行で行ったきり2回目だが、一人で行くのはもちろん初めて。東京駅のホームでは高校のクラブの先輩が迎えに来てくれることとなっていた。ここで少し寝台特急 紀伊の説明をしようと思う。国鉄が1968年10月1日から1984年2月1日まで東京駅~紀伊勝浦駅間を東海道本線、関西本線、紀勢本線経由で運行していた夜行列車である。1975年3月10日の山陽新幹線の博多開業に伴うダイヤ改正で寝台特急へと格上げされた。急行から特急への格上げである。車両は開放式のA寝台、開放式3段B寝台、食堂車などで編成されていた。停車駅は上り紀伊勝浦駅を出発し、那智、新宮、尾鷲、紀伊長島、多気、松阪、津、亀山、四日市、名古屋、沼津、熱海、横浜、そして東京駅に午前6時25分に着く。下りは東京駅を午後9時発、紀伊勝浦駅午後7時22分に着く。その日僕は、3段B寝台の一番下の席、寝台だけど乗ったことがある方は分かると思うけど結構走る音がうるさくて寝れない。結局朝まで一睡も出来ず朝を迎えた。夜行列車の朝というのは、なんであんなに気持ちがよいのだろう。車窓から見える遠くの山々。その間から太陽が昇る。いつもと違う景色が走馬燈のように変わっていく。一日のはじまりを目の当たりにしている。一度行ったがほとんど初めての東京。無知の世界。コンクリートジャングル。合ったことのない人々。田舎より早くすぎると錯覚に陥る時間。それに向かって僕は進んでいる。席の窓からの眺めはそんな自分にしてしまう。わくわくもあり、不安もある。たった2週間だが、僕の進むべき道が決まる大学受験。その頃は、センター試験なんてなく、共通一次試験と呼んでいた。僕は私立受験だったので関係ないが。非常に寒い2月の早朝、東京駅のホームには先輩が迎えに来てくれていた。働きながら専門学校に行っていた苦学生である。
目黒の4畳半のアパートに住んでいた。ジャンバーの襟を立てて僕ら2人は目黒駅まで行き駅前の吉野家に入った。初めて食べた牛丼。この世の中にこんなうまい食べ物があるんか。本当にとりつかれた。それから2週間3食ほとんど牛丼を食べた。受験の時は牛丼弁当。初めの日にお母ちゃんから預かった2万を先輩に渡した。先輩は表の鉛筆書きをじっとみつめ、ほんまは、もらうべきやないけど、ありがたくもらうよ。と受け取った。今と違って物価は違うとはいえ、男1人を2週間泊めさせるのは、金がかかるのである。少ないくらいだと思う。ましてや、先輩は苦学生。本当にありがたかった。
大学は残念ながら駄目だったが、その後中野の専門学校に通うこととなり、上京の時もこの寝台特急 紀伊を利用したし、僕が上京し3年後の1984年に運行が終わるまで帰省の際利用した。本当に思い出深き寝台特急であった。ゆっくり寝たときは、ほとんどないけど。それはそれで良いと思う。僕の東京での生活もこの寝台特急とともに始まったし。乗り換えなくて良かったのがいい。東京から勝浦間は結構時間がかかったが、それも又よし。僕にとって忘れることが出来ない思い出の列車である。
最後に、メリークリスマス。いつもありがとうございます。記念すべき第50話。このつたない話をあなたに、心をこめて。 by タケちゃん
記念すべき第50話 終わり
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