那智勝浦町昔懐かし話 第18話

第18話『内田のおやじ2』
 
17話の続きです。
自称ポルシェでやって来たおやじは、協会事務所の奥から覗かなくても声のでかさでやって来たのが分かる。「みんな元気か。おつ、○○ちやん。今日は一段とかわいいね。吉野おるか、吉野」と入ってくる。僕は隣の職員と「また、うるさい、おやじきたで~。」と眼で合図する。「内田さん、女の子からかったらセクハラになるで~。まあ、こっちへ座ってよ」と僕。「あほいえ、からかいやるんやない。ほめやるんや。なぁ~。○○ちゃん。」○○ちゃんも「あっ、はい」しか言えない。皆は「こまったもんや」と思っても、おやじの本当の姿を知っているので皆、尊敬していた。「なあ、吉野くん、今度のあげいん旗持つけど去年みたいに全部あるけんかもしれんなぁ」おやじは、そのころ体を壊し入退院を繰り返していた。平成26年の春頃の話である。「うん、しょうないね。出発式終わったら去年みたいに車で大社までいったらええやん。」「すまんのお」とおやじ。「ところで体の方はどうなん。」「うん、手術は成功やけどまだ油断できへんねや」「俺も年やからねぇ」おやじは、80歳を超えていた。しかし、調子のええ時は、ダンスもやっていたし見かけは健康そのものだった。おやじは、毎年夏ころから髭をのばし秋のあげいん熊野詣に備えて役作りをし実行委員長兼侍役で自前の侍の衣装を着て「あげいん熊野詣」と書かれた旗を持ち行列の先頭を歩いていた。その後日、おやじは入院した。僕達は入院したことを知らなかった。そして平成26年のあげいん熊野詣に参加することなく内田のおやじは、天国に旅だった。平成26年10月の第4日曜日。第28回あげいん熊野詣当日。僕は担当責任者として早朝から会場にいた。その日の天気予報は、降水確率90パーセント。早朝より曇っていた。僕は空を眺め心の中で叫んだ。「内田さん、頼むから雨降らさんどいてくれ~。頼むから俺らをまもってくれ~。」僕の叫びをおやじは聞いてくれたのか雨が降り出したのはすべての行事が終わってからだった。僕は再び空を眺めた「内田さん、おおきによ~。」「大成功やったで~。」きっとおやじも「ようやったなぁ~。」と言ってくれただろう。次の話はおやじが亡くなった後日、ご家族から聞いた話だが、おやじが天国に旅立とうとしているとき、実は枕元の携帯電話が鳴っていたそうだ。その時前にも書いたが僕たちはおやじが入院していることを知らなかった。その携帯電話をかけていたのは僕だったのだ。内田のおやじの携帯の最後の着信の名前は僕の名前だったと家族の方に教えていただいた。何かものすごく複雑な気持ちだったが、不思議な絆を感じた。今年の10月23日であげいん熊野詣も記念の第30回を迎える。「内田さん、雨降らしたら承知せんからな。頼むで~」そして「出来ることなら、おやじもう一回会って話したいよ~。」                    

第18話終わり


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