#21 人生を変えるサウナ

ドイツでサウナに行きたくて

クリスマスイブの午前8時、朝食からいったんホテルに戻りテレビをつけるとCNNニュースのBGMに賛美歌のジャズアレンジが流れていた。おしゃれだなあ。

さて今日は、旅の一番の目的であるサウナに行くのである。

サウナというとフィンランドのイメージがあるかもしれない。私も旅の予定を練るためにいろいろと調べるまではそう思っていた。が、しかし、ドイツもまたサウナ大国なのだという。

いろんなサウナのレビューを見て、一番行きたくなったのがここベルリンにある、とあるサウナ。次行ったときあんまり日本人に会いたくないので詳しくは書かないでおくが、敷地内に20近くのさまざまなタイプのサウナが作られた、テーマパークのようなところだ。そこでは男も女も全裸でサウナやプールに入るというのだ。

いざサウナへ

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お目当てのサウナはホテルから歩いて行ける場所にあった。必要そうな道具一式をエコバッグに詰めてサウナへと向かう私。

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途中、こんなかわいい看板も発見。

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住宅地の中をしばらくあるいていると、サウナに到着した。

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チェックイン

9時のオープンに合わせて到着するとそこには入場待ちの列が。地元でも人気の施設らしい。受付で簡単な説明を受ける。

「ここはデジタルデトックスなので、ロッカールームより先には決してスマホを持って入らないように」

というわけで、中の写真は一枚もない。

「あと、ここでは静寂を大切にしています。あまりしゃべらないように」

そして天国へ

全裸にバスローブを着てロッカールームを出ると、同じくバスローブ姿の男女がうろうろしている。20代から70代くらいまで幅広い年齢層の人たち。中には親子連れやカップルもいる。施設の中は少しわかりにくい構造で、私はマップを手に見て回った。

少し迷いながらうろうろしているうちにとてつもない高揚感が湧いてきた。掃除が徹底された清潔な空間、適正に保たれた室温と時折ほのかに香るアロマ、無数に並んだほぼベッドみたいなソファ、趣旨を理解して物音さえ最小限に抑えている利用者たち……

とにかくもう、最高としか言いようがない。

私が求めていたのはこれだ。このためにドイツに来たし、きっとまた何度でも来る。

屋外にあるプールに、全裸になって入ってみる。水深が深すぎることにびっくりしてすぐに出たが、全裸であること自体はなんてことはない。みんな全裸だし、別に見てこないし。

定時のイベント

30分おきに施設内のサウナどこかでイベントが発生する。複数のサウナで同時に発生することもある。

設置された掲示板には何時にどこでなんというイベントが行われるかが書かれているが詳細は分からない。

「音の瞑想」とか「香りの旅」とか「水晶の儀式」とかよくわかるようなわからないようなタイトルだ。「ティーセレモニー」なんてのもある。「Yin&Yang」は陰陽か。「オレンジソルトピーリング」は比較的わかりやすい。

まあ、物は試しに10時からの「Guten Morgen Aufguss」に行ってみることにした。アウフグースというと日本でも聞いたことがある。タオルでバッサバッサと熱風を送られるやつだ。

開始10分くらい前にサウナの前に行くと、すでにほぼ満員。みんなと同じように入り口近くに並んだフックにバスローブと荷物をかけ、サンダルを脱いてサウナに入る。みんな自分の腰かけるベンチそして足が触れる部分までしっかりとバスタオルを敷いている。老いも若きも落ち着いていて静かだ。胸や股間を隠す人もいない。だってみんな全裸だから。私も全裸で行儀よく座ってイベント開始を待った。

時間になると、係の男性がやってきて入口を閉める。バケツと柄杓、それと氷の玉らしきものを3つ持ってきた。何やら簡単な説明をしているがドイツ語なので全然わからない。「それでは……」みたいな感じでアツアツの石の上に球体をひとつ置く。で、バケツの中の水をかける。すると蒸気がもわんと立ちのぼり、サウナ中に熱気が満ちてきた。

す、すっごいいい香り……ミントだ……

おそらく氷の玉にアロマをしみこませてあるのだろう。私が座っていた端のほうにもしっかりと香りが届いた。しばらくして氷の形がなくなってくると、今度は男性がタオルを回し始めた。日本のサウナでは威勢のいいお兄ちゃんが「ネッパ! ネッパ!」とか言いながらタオルをぶん回すというイメージだったのだが、全く違う。とても優雅。なにか伝統的な儀式で舞を見ているようだ。男性はサウナの中を移動しながら一人一人にタオルで風を送る。私の目の前でタオルが振り下ろされたと思ったら次の瞬間、さわやかなミントの香りの熱風が顔にぶわっと当たった。

儀式はその後、残りの玉2つ分、2種類香りを変えて行われ、15分程度で終了となった。

これまでまともにサウナに入ったことさえなかったので、終わるころには少しぼーっとしていたが、サウナを出てシャワーを浴びたとたん、とてつもない充実感に支配されてしまった。やばい、めちゃくちゃ気持ちいい。これか。

再びバスローブを着て、屋外のデッキチェアでくつろぐ。12月のドイツの空気がひんやりとなんとも心地よい。天国だ。私は今、誰の指示も誘導も受けず、ただ自分で選んでここにいる。そのことが天国を、ワンランク上の天国にしてくれていた。

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