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特別ではない僕がExcelの書籍を出版できた理由
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私がExcelの書籍を出版することができたのは、たくさんの人からの学びと、技術評論社の編集者である石井さん(https://twitter.com/isicihi)の尽力があったからこその成果だと思います。この本の内容が世の中のExcelスキル向上に貢献することに比べれば、私自身が出版したことは特別なことではないかもしれませんし、誇りに思っているわけではありません。しかし、私のExcelの道のりがここにつながり、自分の思いがこの本に詰まっているのは事実です。
Excelで“時短”システム構築術――案件管理の効率化を簡単に実現しよう!
どこにでもいそうな私が、なぜ本を出版できたか、興味ありませんか?どうやったら本を執筆できるのか、気になることでしょう。ネット上には私より優れたExcelユーザーやOfficeユーザーがたくさんいます。私は、そのような方が、Excelスキルを共有し、デジタル社会をリードできる活動を応援したいと考えています。
その思いから今回の本を執筆したのですが、私のExcelとの出会いから本の執筆まで、どのように実現したかをご紹介します。
Excelとの出会い
1992年、私は半導体開発の現場でExcelを初めて使いました。当時、私の働いていた現場では、大量の試作データを効果的に管理する必要性がありました。そこで、Excelというツールが世の中にあることを知り、それを使って課題にどのように対処できるかを模索する仕事を与えられました。
私にはプログラムの経験があったため、最初はExcelを純粋な表計算ソフトウェアではなく、自動化を実現するためのプログラミングツールと捉えました。データをファイルから1行ずつ読み込んで、その内容を集計し、最終的なデータをファイルとして保存するというイメージで、Excelの画面上での操作は考えていませんでした。
しかし、Excelにはセルというデータを表現できるフィールドがあり、そこで計算式を作成することによって、プログラムを使って実現するよりもはるかに迅速に課題を解決できることがわかりました。この瞬間が私にとって画期的でした。パソコンに詳しくない一般の人でも、データを入力すれば、私たちが数時間かけていたデータ処理を瞬時に行えるようになったのです。
当時のExcelは、マクロの記録を通じてプログラミングを行うことが主流でした。佐藤は、これを活用して試作データの処理を効率化することを模索しました。
しかし、処理するデータはとても多く、人の手で一回一回データを入れ替えるということをしていたのでは、いつまでも終わらないということになりました。
そこで、全自動化を目指していきます。全自動化をすれば、人がその作業をしない夜間でも自動的に処理を進められると思ったのです。
Excelはとても機能が充実しているので、その機能をマクロの記録で記録し、必要なところだけを数か所書き換えて使うという使い方を考えました。マクロの記録の前段階で、シートに計算式を入力しておけば、ファイル操作の部分をマクロの記録機能で記録し、あとはループでたくさんのデータファイルを処理、保存をしていくというところを追加修正して完成させるイメージです。
この、計算式の作成。マクロの記録、マクロの変更という順番のイメージを持てたことが、最終的に今回の書籍に繋がっていきます。
このExcelでのデータ処理は成功し、半導体開発のスピードアップやデータの可視化に大きく貢献できました。
プログラムするよりもあまりにも手軽だったため、その後数年にわたり一切のプログラムをしなかったほどです。
Officeの登場と新しい運用(1995年)
1995年、Microsoft Windows95とOffice95の登場です。それまでMacでExcelを使っていたのですが、いよいよ、Macのように専門性の高いスキルが必要なパソコンではない、一般にも広くExcelが使えるようになりました。
Windows95と同時に登場したOffice95は、Word、Excel、Accessなどが1つに含まれたものです。この登場により、一般的なオフィスでもパソコンが広がっていきます。
私は、ExcelとWordを組わせた活用方法を考えました。Excelで作成できるところはExcelで作成し、出来上がったデータをWordのテンプレートに貼り付けるということをしました。
しかしここで一つ、つまずいていてしまったことがあります。
それまでのマクロの使い方と、Excel95でのマクロの扱い方が全く変わりました。マクロの記録をした内容を改造して使うことが得意だったのですが、マクロの記録をして作成されるものが、今までのマクロ言語よりもプログラム的な、「VBA」に変わったのです。
VBAはオブジェクト指向言語の要素を含む高度なプログラム要素を備えており、これまでの方法では対処できないほどの変化でした。この変化に対応するため、私はしばらくマクロから距離を置いて、計算式だけを使ってデータ処理を行う方法を模索しました。
マクロを使わないという制限の中で、私のExcelスキルは更に研ぎ澄まされていったのです。Excelをプログラムツールとしてではなく、本当の意味での表計算ソフトとしての在り方を学んだのです。
パソコンインストラクターへの転職(1996年)
1996年、Excelのスキルを次のステップに進める決断が下されました。これは、半導体開発現場でのExcelの利用から、Excelスキルを教育分野に応用する新たなキャリアへの移行でした。
私はこの時点で、他の人よりもExcelが使える、Excelのエキスパートになっていました。そのころ、その多彩な機能とビジネスでの重要性から、ますますExcelの需要が高まっていましたが、実際にはExcelが使える人はまだまだいなかったのです。そこで、私のExcelのスキルを使って世の中の仕事の仕方を変えたいと思いました。そこで、Excelを教えるという分野で活かす決断をしました。
パソコンインストラクターとしてのキャリアへの転職は、Excelのスキルを他の人々に伝える素晴らしい方法でした。教育の分野でExcelを教えることで、他の人々にとってもExcelが強力なツールであることを示しました。
一方で、人に教えるためにはExcelスキルをより体系的に学び直す必要がありました。これまでの自己流での学習から、体系的で組織的なアプローチへの切り替えが求められました。これは、Excelの基礎から高度な機能までを網羅的に理解し、他の人々に教えるために必要なスキルを確立するための重要なステップでもあり、自分自身のExcelスキルを一段階上げることにも繋がりました。
ただ、実際に私がいた現場でのExcelの使い方や受講生から聞いている現場でのExcelの使い方と、Microsoftの公式なテキストに書いてあるExcelの使い方に乖離があることにも気づきました。現場では表計算よりも、データを一覧表で見られることが重要視されていたのです。
実際の現場では、フィルターができるような一覧表の管理方法が重要視され、Microsoftが勧めるExcelの使い方である計算するようなシートはあまり使われていませんでした。
この違いは、長く私のExcelの世界観を大いに悩ませるものとなります。
MOS試験の登場(1997年)
1997年、Excelのスキルをさらに向上させる新たなチャレンジが待っていました。その年、MOS(当時の名称はMOUS)試験が登場し、Excelの世界に新たな可能性が広がりました。
MOSは、ExcelやWordのスキルを証明する実技試験でした。この試験は、当時のExcelユーザーにとって、スキルと知識を正確に証明する新しい手段として受け入れられました。自分自身のスキルを正確に評価し、受講生にもExcelのプロとして信頼されるために、私はこの試験を受験しました。
MOSは、実際のExcelを使用して課題を実行する形式でした。従来のExcelの試験でも実技試験はあったのですが、採点は人間の手によるもののため、保存されたファイルに記録されている設定や計算式が正しければ正解になりました。MOSは人間の手ではなく、プログラムが採点です。全自動の採点により最終的な結果だけではなく、途中の操作内容も審査されるのです。また、人の採点では見逃されてしまうような小さな違いも正確に採点されるのです。
そのような正確性を保ちながら、もちろん試験ですので時間とも勝負でもあり、ひとつひとつを正確に確実にしかも早く操作するということが必要になったのです。
この試験は受験者にとって大きな挑戦です。しかし、Excelのスキルを高め、エラーなくタスクを実行する能力を磨くには最高のツールになります。
私のMOSの受験と同時に、受講生にも試験を受ける勉強を教えることも必要でした。他の人々にスキルを伝えることを両立させることは容易ではありませんでしたが、「課題を確認する」「実際の操作する画面を確認する」「どこでどんな操作をするか頭で考える」「実際に操作する」「確認する」という一連の流れをすれば、早く正確に操作できるというMOSの合格に必要な考え方を思いつくに至りました。
これはMOSの受験以前に、うまくパソコンを使っている人が当たり前にやっていることだということにも気づき、受講生の指導だけではなく、自分自身のパソコンの使い方としても、ビジネスにおいて正確さとスピードが重要であることを認識するきっかけとなりました。
キャリアの転機とエンジニアリング(2004年)
2004年、私のキャリアには新たな転機が訪れました。その頃、パソコン教室のバブルが終わり、どんどん閉鎖していったのです。私のいたパソコン教室もその波には勝てませんでした。そこで、エンジニアの世界への復帰をする決断を下しました。
エンジニアリングへの復帰は、初期のキャリアに戻るような感覚でした。技術とデータ解析への情熱が再び湧き上がりました。しかし、当時の私のスキルは、配属された部署の分野では十分とは言えませんでした。それでも、私はExcelスキルが負けない自信がありました。Excelはデータの可視化や分析において強力なツールとなり、分析に使う関数やマクロでの自動化など、ありとあらゆるExcelの知識を駆使して、プロジェクトの効率化に挑みました。
Excelスキルの活用により、エンジニアリングのプロジェクトの進行が迅速化し、品質向上に寄与しました。また、Excelの重要性を現場に広め、さらなる効率化を実現する一助となりました。この経験から、Excelを単なる表計算ツールではなく、プロジェクト管理、データ処理、および効率化の強力なツールとして活用する機会を強調することができました。
最終的に、Excel効率化の技術と経験が評価され、プロジェクトの成功に貢献しました。この経験から、私は得意分野で個性を発揮することが仕事のやり方の一部であることを理解しました。 Excelは、私がビジネスにおいて個性を表現し、キャリアを築くための強力なツールとして今も支えています。
パソコンインストラクターへの再復帰(2005年)
翌2005年にはエンジニアとしての契約終わり、運よくそのタイミングでまたインストラクターの仕事を始めることとなります。
そこでは、単にパソコンのインストラクターということだけではなく、非常に多くの人からわからないことをその都度対面で受け付けるということをしました。一人当たりの対応時間は限られます。
そのような厳しい現場では、効率の良い伝え方が非常に重要でした。間違えたことを教えてもいけないし、もちろんクレームの出るような対応をしてもいけません。しかし、ちょっとでも油断すればちゃんと対応していないと思われる可能性も大いにあり、短時間で正しく丁寧に伝える技術ということを磨く必要がありました。
ここでの経験は、シンプルな説明をするということができるという今の教え方に繋がりました。
また、この時期には、様々な総務的な仕事も経験しました。エンジニアやインストラクターではわからなかったバックオフィスの重要性、効率化を推進しなければいけない理由を学び、またここでも実際の業務で使う管理システムを作成するなどの効率化を行いました。その過程で少しだけVBAを勉強し、また、マクロでの自動化を進めていきました。
フリーランスとしての独立(2012年)
2012年に私は新たなキャリアへの一歩を踏み出す覚悟を決めました。それは、フリーランスとしてのキャリアへの転換です。この決断は、Excelのスキルと知識をさらに深め、様々なプロジェクトへの参加とクライアントと協力することに繋がります。
フリーランスとしてのキャリアは、新しい挑戦と機会が溢れていました。クライアントの要求に応じてExcelで業務効率化のツールを作成、提供し、ビジネスプロセスの最適化に貢献しました。さらに、Excelを使ったデータ分析とレポート作成の専門家としての評判が広まり、新たなプロジェクトの依頼が相次ぎました。
2014年、私はExcelの世界での経験と知識を広める機会に恵まれました。ブログにExcelで防犯ができるということを書いていたところ、プレジデント社の目に留まり、「Excel魔法の教室」の監修を担当することになりました。ここではExcelのさまざまな応用方法やベストプラクティスを書籍にまとめました。
この書籍は、何度もムック化され、Excelをより効果的に活用したい人々にとっての貴重な本となり、総売り上げは10万部になりました。Excelのスキルを教え、指導することは私の情熱の一部であり、書籍執筆はその情熱をさらに高めました。
その後、すぐにExcelの進化の瞬間に立ち会います。一つはテーブル機能とPowerQueryの登場です。Excelは表計算ソフトで計算することが一番の目的ですが、実際の現場では計算をすることよりもリストとして一覧表を管理し、フィルターを使って絞り込むなどの使い方の方がはるかに多かったのです。しかし、テーブル機能とPowerQueryは計算というよりも一覧表管理を強化する機能で、いよいよExcelも表計算だけではなく一覧表管理という使い方も正式な使い方としての比重を多くしてきたと思いました。これにより、表計算ソフトなのに一覧表管理をしているのは本当にいいのかという迷いは断ち切ることができました。
もう一つの進化はスピルです。今までフィルターや並べ替えは機能で操作するものであり、自動化するには絶対にマクロやVBAが必要でした。しかしスピルでは計算式でそのようなことが実現できるので、とてつもない速さで業務ツールを作成することができるようになったのです。そのスピード感は早くビジネスを進めていくというビジネスにとって大事なことの一助になることも知りました。このスピルはいつかExcelに搭載されるはずだという信念を持っていて、登場するのを待っていました。そのおかげでとても早い段階でスピルを世の中に紹介したのが、技術評論社の目に留まったのです。
また、フリーランスになってからはVBAの達人たちにも出会いました。Excel機能を最大限に引き出すためには正しいVBAの使い方が必要ということを認識し、今までマクロの記録で作成したVBAを改造するというスタイルで、それはある程度、今でも使えるテクニックですが、それ以上にExcelで高度なことをするためには、もっと本格的なプログラムとしてのVBAの知識が必要になり、そこで、オブジェクトに対する処理や、変数の扱いの大事さに気付くことができました。
Excelの専門書を執筆(2023年)
2014年に「Excel魔法の教室」を監修したときに、いつかはやることになるんだろうなと思っていたのですが、2023年8月に自分の著書としてのExcelの専門書を、実際に出版する機会に恵まれました。
技術評論社の「Excelで“時短”システム構築術」です。
この本は、今までの経験が詰まった本で、Excelで案件管理のシステムを作るという内容になっています。
実際に操作する
Excelで一覧表管理をする
なぜExcelでシステムを作るのか
なぜExcelのそれぞれの機能を使うのか
できるだけExcelの計算式で作る
できないところはマクロの記録
マクロの記録でできないところはVBA
スピルによる自動抽出
このように、今までのExcel人生の中で培われたアイデンティティを表現することができました。
今までのExcelの経験や勉強が一つでもなければ、この本の発想にはならなかったでしょう。
まとめ
30年のExcelのキャリアがありますので、おそらくその長く使っていることが、今回の著書の執筆者にたまたま選ばれた原因としては一番大きいかもしれません。Excelにとっては不遇な時代もあった私が通ってきた時代より、今の時代の方がExcelの情報はたくさんあるのでこれからExcelを使っていく人なら30年もせずに私のアイデンティティを手に入れることができると思います。
そんな中で私がラッキーだったことは次のようなことが挙げられます。
エンジニアでキャリアをスタートしたこと
エンジニアでプログラムもできるようになっていたこと
Excelができてすぐの時期にExcelを触り始めたこと
Excelでできるかどうか調べる仕事でExcelを始めることができたこと
Excelをプログラムの道具にして始めたこと
パソコンインストラクターになろうと思ったこと
MOSの試験が世の中に現れたこと
フリーランスになったこと
エンジニアの経験とExcelを融合したこと
Excel魔法の教室を監修したこと
関数でフィルターがいつかできるようになると思っていたこと
スピルの有用性をいち早く気づいたこと
これらは、特別なことに見えるかもしれないですが、実際にはそうなるように信念を持っていたり、準備をしていたり、チャンスが来たらすぐに対応できるようにしていたりという、ことがあったからだと思います。そのようなマインドがあれば特別私にだけ起きたことではないと思います。
つまり、ExcelやIT関連の本に限らず、得意分野の本の著者になるのは、誰にでもできることだと思います。
自分自身のできることや経験を、正直に背伸びをせずに情報発信していることが重要だと思います。
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