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柚木麻子『Butter』の感想

柚木麻子さんの著作『Butter』を読みました。
美しくない容姿を持つ太った女性が何人もの歳上のお金持ちの男性を殺害するという話。
数年前に世間で取り上げられたような内容だとあらすじを読んで思った。本書でも現実と同様に、見た目が麗しくない女性が何人もの男性を手玉に取れば、美人のそれよりも数倍も冷徹な反応をされるのだと改めて感じた。

それ以上に思ったことが、
自分の主観でしか世界が見えないのは誰もが同じだけれど、それを自覚して振る舞うか無自覚なのかは、生きてる世界も見えている風景も全く異なるのだろうということ。自分が他人からどう見えるのかは少なからず誰もが気にしていることだけれど、自分を認めてくれる人 (自分を見る主観を理解して価値を示してくれる人) だけの世界で閉じて生きていくことはとても心地が良いし、多くの人はそうやって "家族" を作る。本書のカジナマは、異性にそれを求めたけれど上手くいかなくて、口では「崇拝者が欲しい」と言いながらも本当は同性の友人を欲しがっていた。相手を利用する人間関係しか学べなかったら、彼女のような人になるんだと思った。

"料理を作る" という行為を、自分の食べたいものを作ることだと定義付けられるのは私からしたら幸せなことに思う。私は自分1人でご飯を食べるなら毎日納豆ご飯でも良いと思う人間なのだけど、夫や子供が食べると思うからこそ、バランスを考えて献立にしている。これは別に彼らの為という訳ではなく、私の為にやっている。私の大切な人達を大切にしているという、自負が欲しいだけなんだと思う。

この本には、フェミニズムの話も出てきたと思っていて、男顔負けにバリバリ働いている記者である主人公と、「男性には敵わないんだから男性を立てるべき」だと何度も何度も主張するカジナマとの立ち位置の違いも興味深かった。私は世間一般的な男性の平均収入を遥かに上回る年収があるので主人公の仕事のやり方に共感しカジナマには反感を覚えた。男性の中には、立てるべき要素が見つからない怠惰な人間もいるというのに、カジナマはそういう男こそ立てたりして (そこには明確な理由があったのだけど) 私には理解ができなかった。本を読み進めるにつれて、当初そんなふうに思っていた私でさえカジナマの生き方に若干の共感を覚えてしまった部分が、この小説の恐ろしさだと考えている。
読了後は、夢から醒めたような気持ちで改めてカジナマの生き方は哀しいと思った。


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