一人歩き

1人で渋谷の夜はドキドキする

大好きなシンガーソングライターのライブを見に1人で夜の渋谷へ

会場に着いた頃はまだ少し明るかったのに、終わって外に出たらもうすっかりあたりは夜だった

夜の渋谷


1人で歩くのははじめてだ

電光掲示板の明るさは昼間と変わらないのにまるで違う街みたい

道に迷ったらどうしよう
人が多くてうるさくて明るくて目が回る

わたしはキョロキョロと所在なさげに周りを見渡し
おどおど歩くことしかできない

変な人に声をかけられたらどうしよう
そんな風に警戒してたのに周りの人はわたしなんか目に入らないみたい

わたしの横をせわしなく
みんな、みんな笑いながら、
ときに少し怒鳴りながら通り過ぎてく

金曜の夜の道玄坂は酔っ払った人人人
みんな声が大きくてお酒くさい
なんだか人じゃないみたい

信号待ちをしていたら
酔っ払ったおじさんが後ろで大きな咳をした

わたしはそれだけでびっくりして怖くなってしまった

慌ててかけだし駅に向かう
この坂を下ったら109にたどり着いて
そこから駅はもうすぐだ

あとちょっと、あとちょっと…
と、駅に向かって一目散に走るわたしをみんな何も気にしない

みんな自分に夢中で精一杯

誰もわたしなんか見ていない


さっきまで警戒してた自分が自意識過剰みたいで恥ずかしくなる

立ち止まって

小さく息を吸って

また歩き出す


夜の渋谷の街中ではわたしなんか空気の一部だ

そう思ったら安心して
さっきよりしっかり歩けるけれど
少し寂しい気持ちが残る

怖い思いはしたくない
でも誰かに声をかけられてみたい

こんなに人が多い街で誰かに見つけて欲しい

大勢の中で誰かの目にとまるくらい
自分が魅力的であってほしい

そんな願いはおかしいのでしょうか


道行く誰かに突然、声をかけられて
「きみかわいいね、このあと一緒にどう?」
なんて誘われちゃいたい
それを迷惑そうに断って
一目散にお家に帰ろう
君が待つお家に
そして君に「怖かった」って話して
心配させちゃおう

…ほんとはちょっと嬉しいくせに


つかまえとかないとわたし、どっかに行っちゃうかもよ


君以外もわたしを見つけたよって

そうちらつかせて君に嫉妬させるのだ


…なんてね、うそだよ
どっか行くなんて怖くてできないよ


わたしの居場所は渋谷にないよ


中央線沿いのワンルーム
君とわたしと二人暮らし
わたしの居場所はそこにある
君との暮らしの中にある

君がどこにもいかないでね
わたしはどこにも行けないんだから

大勢の中じゃ誰にも見つけてもらえない
わたしを君が愛してね

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