ホワイトアウト

あの夜、あの吹き荒れる吹雪の中、先の見えぬ道を車は慎重に軽快に進み続けた。私たち家族はそんな風に生きている。

「雪強くなってきたな」

隣でハンドルを握る父が言った。確かに、窓を掠めていく雪は力強さを帯びていっているように見えた。これが北海道の雪か。中学生だった私は、旅行の非日常感と見慣れぬ吹雪で少し興奮していた。夕方まで別の場所を観光していた私たち家族は、滞在する予定のホテルに向けて出発していた。

山の道道(県道は北海道だと、どうどうと呼ばれるらしい)を進んでいた私たちのレンタカーは気づくと一人ぼっちになり、それを強調するように夜と雪は深まった。その一方で、車内はわりに賑やかで後部座席の母親と弟も入れてしりとりなんかをやっていた気がする。だが、次第に周囲はホワイトアウトのような状態になり、意識は自然と外に向けられた。街灯の人工的なオレンジと雪が合わさり、辺りは幻想的とも言えるかもしれない薄明るい光景を呈していた。10メートルほどの視界しかなく、看板も見えないため、カーナビを信じて進むしかなかった。本当に道かどうかも分からないところを車は駆けた。後で知ったが、私たちはいつの間にかダムを通り過ぎていたらしい。

ガラスごしではあまりにボヤけて見えないので、私は父に頼まれて窓を開け、少し体を乗り出して先を見た。他の三人には見えていない少し先を。そして、そこに見えるものを父に伝えた。弟も異様な状況を楽しんでいたし、母親も笑っていたと思う。車内の暖房で火照った頬を、通り過ぎていく風が冷やす。前を見るので精一杯、横に見えた景色なんて覚えちゃいない。それでも、このまま進んで行ける気がした。

次第に雪は弱まり、周りに人工的な建物が増えてきたことに気づけるくらいになると私たちは宿に到着した。こんなに安心する宿は他に無かった。アイヌの狩人も、生きて帰ってこれるか分からない狩猟の後、家族で火を囲み同じ気持ちになったのだろうか。

しかしながら、振り返って見ると危機的な状況の割に、車内は賑やかで緩い雰囲気があった。心配性の父親はヒヤヒヤしていただろうけど。今考えると、あれが元来うちの家族の進み方なのだと思う。先の見えない中、根拠のない緩さで進んでいく。ハンドルは心配性の父親が握って。そのためには、他の人が見えない少し先を見る存在も必要だ。私もいつかは運転席に座る日が来るのだろうけど、もうしばらくは窓から身を乗り出していよう。

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