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母は強し(7人目のAさん)

今度Aさんリハビリに行ってる診療所で歌うらしいよ。
担当のケアマネが教えてくれました。
思わず、えっ!と驚いてしまいました。

Aさんは2年前に当病院の回復期リハビリ病棟に転院。
脳出血で右上下肢麻痺、失語症、糖尿病がありインスリン療法施行中。
当時39歳で2歳の子どものお母さんでした。
入院当初から子どもの3歳の誕生日には退院したいと強く希望され、誕生日には退院して家でお祝いすることを目標にしていました。
しかし誕生日までは2ヶ月しかなく、主治医もリハビリスタッフも、Aさんの年齢と障害状況を考えれば、期限ぎりぎりまでリハビリの継続が望ましいという判断でした。
Aさんの夫や母親に病状説明を行いましたが、子どもの誕生日に合わせた退院の意志は固く、リハビリの継続にはかたくなに拒否。

そのAさんの性格ですが、いつも焦らないポジティブシンキングで、めげているところはみたことがありません。
できなかっても、「あら、できないわ」とまるで他人事のよう。
それでもリハビリはがんばりました。

利き手の右手が不自由でも、インスリン注射は左手を使って上手にできるようになりました。
文字は左手で書けるようになったのですが、失語症のため言いたいことが言葉になりません。
言いたいことははっきりしているのですが、単語がでないのです。
会話の中で「あの」「あれ」という言葉がでると、こちらも考えて言葉をかけます。
言語リハビリも一生懸命がんばりました。
結局説得の末、入院して4ヶ月後、子どもの3歳の誕生日のあとで退院となりました。
退院後もリハビリはがんばっていたと聞いていました。

今回、歌うというのでチラシを見せてもらうと、Aさんが通院しているクリニックの納涼コンサートでした。
20歳のころは東京で歌っていたことがあったのは聞いていました。

主治医のギター演奏にあわせジャズの定番を2曲、しかも英語で歌うAさん。
右足に装具をつけていたので座って、しかも歌詞を見ながらでしたが、なかなか堂に入った歌いっぷり。
大丈夫なんだろうかとの不安は全くの杞憂でした。

当病院入院当初から、Aさんのモチベーションを維持させたのは、子どもにご飯を作ってあげたい、という思い。
子育ての基本はご飯を作ること、が持論。
今でも右手足のマヒは残っていますが、家では食事を作り、保育園の子どものために、毎朝お弁当を作っているそうです。
まさに「母は強し」ですね。

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