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ワイン知らずのワイン談義:革ジャンの初老男

確かパリのレストラン、いや違ったか、ニースとか南仏だったのかな。そうそう、男性がその感じだったからニースに違いない。かなり流行っているポピュラーなブラッスリで飯を食っていたら革ジャンを着た初老の男が若く派手な美人といっしょに入ってきた。どうやら常連客らしく店の奥のテーブルに案内されるまでもなく腰を落ち着ける。他の客はそれとなく二人を観察しているのがわかる。若く派手な美人と初老の男の組み合わせは南仏ではよく見るものだ。男は商売人、ブローカーとか、なにか現金商売で金回りが良さそうだ。派手なものの女性に娼婦という雰囲気はない。二人はメニューも見ずに魚料理を注文し、「ワインはどうします?」と言うギャルソンの問いに男がボルドーの赤をくれと答える。へー、魚料理にボルドーの赤なのかと私はちょっと驚いていた。しかし魚に赤は当然だろうという自信が男にはいかにも自然で、それはそうだと思わせるものがあった。ギャルソンが何も言わずたちまちボルドーの赤をテーブルに置いたのは、あるいはこれが初めてではないのかもしれない。

この件以来、私も魚料理に赤を注文するようになった。セクシーな若い愛人を人に見せびらかす、このちょっと趣味の悪い初老男のように自信に満ちて。

補足:こういう男のことを南仏ではkakouカクと呼ぶ。ネットではカクを「うぬぼれの強い、人の関心をこっけいなまでに引き付けようとする男のこと。『アイツの新車を見なよ、カクやってるじゃないか』というように使う。」としている。私がニースで南仏の人にこの語の説明を受けたときは、これほどネガティヴな意味合いはなかった覚えがある。

というわけで魚料理に赤でもオーケーです。自信を持つかどうかの違いだけ。革ジャンを着て黄金の太い指輪(シュヴァリエ)をつけて、若くグラマラスな、もうとろけそうな美人と一緒にね。もしあなたが女性であれば大粒の真珠のネックレス(ミキモトに限る)とこれも二、三カラットはあるダイアモンドの指輪を忘れずに。スーツはシャネル、バッグはビルキン、パルファンはミツコ?したがえる男性はもちろん若くて初心でワインをちょっと口にしただけで頬をさっと赤らめるジゴロの匂いのしないのを選びましょう。(ひどい描写だな!皆様お許しのほど。)

絵:フリーハンドのデッサン

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