与論唄暦
yoron blue. では2014年から、与論に住む人が撮影した写真にこだわったカレンダーを制作してきました。与論でとびきりなものと言えば何をさておき海なのですが、それだけにとどまらない風景を幅広く紹介したかったからです。そのためには実際この場所で暮らす人の視点は欠かせません。
しかしながら、やはり観光の島。フォトジェニックな、いわゆる「映え」な風景をチョイスしていた面は否めないところ。とにかく、どこを撮っても「映え」になってしまうのですから。しかし2019年版はちょっと違うんです。
撮影は島の音楽家
与論に「らいぶcafe かりゆし」というライブハウスがあります。島に古くから伝わる民謡を後世に伝え、さらには新しいエッセンスも加えつつ幅広く活動している「かりゆしバンド」のホームグラウンド。そこでは毎晩かりゆしバンドの演奏が繰り広げられ、ラストはお客さんも皆立ち上がって、かちゃーしーで盛り上がるのが定番です。
「かりゆし」では、演奏に合わせてステージ背後の大画面モニターに与論の様々な風景が映し出されます。初めて訪れたとき、心躍る音楽と輝く映像の組み合わせに、しばし時を忘れて酔いました。
こんな風景をいずれカレンダーにと心に留めておいたのですが、後日その写真を撮影したのがかりゆしバンドを率いる田畑哲彦さんご自身と知り、2019年版の制作を考え始めたとき、あらためてご相談に伺いました。以前に作ったカレンダーを持参し、冒頭に書いたような気持ちで作っていることを伝えたところ、写真の使用を快諾いただいたのでした。
テーマは島唄に
彼の音楽的姿勢と同様、その写真も島人としての立場に根ざしたもの。何気ない日々の瞬間の中に、与論の歴史や暮らしぶりが色濃く反映されていて、島を知るものには空気感まで感じさせます。
それらを眺めつつカレンダーの方向性を探って打ち合わせをした際、写真に与論民謡を組み合わせてはどうかと田畑さんがご提案くださいました。ライブと共に写真を観た記憶が脳裏によみがえります。もし誰かがそんな唄と映像の企画を立てたとしたら、監修者には、数多ある与論の唄を知り尽くした彼を置いて他にありません。まさに願ったり叶ったり。
「島唄」って言葉を聞いた事があるでしょう。THE BOOM の曲で有名ですが、本来島唄とは奄美群島で古くから歌い継がれてきた民謡のこと。元ちとせ、中孝介、『西郷どん』のエンディングテーマで話題の城南海や、奄美の美空ひばりとも称される朝崎郁恵など、奄美出身の唄者は多く、歌謡が盛んな地域である事が知られています。
与論に伝わる民謡も同じ島唄の系譜。わくわくするようなカレンダーのコンセプトが決定し、その時点で、これまでとはまったく違ったものになるという手応えがありました。
こんな唄が添えられています
その後、ご提供いただいた膨大な量の写真からじっくり時間をかけて厳選し、それらに見合った唄の選定を田畑さん、バンドメンバーの牧美也子さんにお願いしました。やがて送られてきた唄の一節を写真と組み合わせたとき、その世界がぐっと開けて見えたのを覚えています。
そんな12ヶ月のカレンダーの中からひとつ、八月に添えられた唄をご紹介。
八月 石積ぬ半田
夏ぐりぬさがてぃ
夏ぐりやあらじ
思人が涙
いしちゅみぬぱんた
なちぐりぬさがてぃ
なちぐりやあらじ
さとぅがみなだ
訳:石積の半田(地名)に夏の夕立がかかり、雨が降り出した。あれは夕立ではない、恋人の涙である。
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完成したカレンダーでこうした唄と写真を組み合わせて見たとき、与論の時間や風を少しでも感じてもらえればと願います。
カレンダーはA4サイズでフルカラー28ページ。オンラインストアの他、島内でも扱っていただいています。もし島に行かれることがあれば、ぜひ実物をご覧ください。
山の国に住みつつ与論島をテーマに活動中。なぜ? どうして? その顛末は note 本文にて公開中!