見出し画像

ヴァーチャルは現実を超えるか

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす

 夕食時にテレビを見ていたら、花火の映像を中継していて、それを見ていたスタジオのタレントが「CGみたいですね」と言った。むろん褒め言葉のつもりで言ったことはわかる。しかし、この一言がどうにも気になって仕方ない。
 真意としてはたぶん、「現実を超えるような美しさですね」ということだと思う。しかし、受け取りようによっては「作り物めいて見える」という否定的な意味にもとれる。むしろ、私なら素直に受け止めればそういうふうに理解する。昔のCGはいまから見ればいかにもお粗末で不自然な代物だったから、そういう印象になるのだろう。だが、いまの若い人たちはおそらく、完成度の高い、それこそ現実と見紛うようなCGしか知らない。だから前者のような見方になる。そういうことかもしれない。
 一般に、何かに例えて褒める場合、対象よりも優れたものを引き合いに出すのが普通である。料理を宝石箱に例えるのもそうである。したがって、「CGのようだ」を褒め言葉として使っている場合、現実よりもヴァーチャルを上位とみなしていることになる。これが決定的な点だと思う。
 従来のいわゆるヴァーチャル・リアリティは、現実を下手糞に真似ているに過ぎになかった。それがいまでは、現実には存在しないものを、現実とほとんど変わらない精度で描写することができる。現実ではないものを、現実のように表現できる。だから現実を凌駕している。そう感じるのかもしれない。
 別にそうした価値観が間違っているとか、そういうことを論じる気はない。だが、現実の代替物、つまり偽物の現実でしかなかったヴァーチャルは、いつか現実そのものとなり、やがて現実以上のものとなるのだろうか。たとえそれが、アンドロイドの見る電気羊の夢だとしても。
(二〇二〇年七月)

𝐶𝑜𝑣𝑒𝑟 𝐷𝑒𝑠𝑖𝑔𝑛 𝑏𝑦 𝑦𝑜𝑟𝑜𝑚𝑎𝑛𝑖𝑎𝑥

養老先生に貢ぐので、面白いと思ったらサポートしてください!