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タバコ休憩は妥当か

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす

 このエッセイをお読みの方はもうお気づきかと思うが、私は喫煙者である。ただし、ヘビースモーカーではない。1日に吸うのは7〜8本。出かけるときはタバコを持たない。吸える場所を探すのが面倒だからである。家に帰って吸えばよい。タバコは家でしか吸わない。もっとも、私にそれが言えるのは、家で仕事をするフリーランサーだからである。会社勤めだった頃は、いつも休憩時間にプカプカやっていた。
 タバコ休憩は認めるべきか。ときどきそういう議論が起こる。たしかに、1時間に2回も3回も喫煙所に行かれたのでは、「あれで仕事しているのか」と思われても仕方ない。ただ、それも程度問題で、差し障りのない範囲でならタバコくらい吸ってもいいのではないかと思う。喫煙者だけタバコ休憩が許されるのはおかしい。それなら、普通の人にはコーヒー休憩を認めてはどうか。
 制服などに着替える時間は、業務時間だと認めるべし。これは一見すると、被雇用者にやさしい判断に見える。しかし、本当にそうだろうか。着替える時間も業務のうちだと決まったらどうするか。私なら、なるべくゆっくり時間をかけて着替える。できるだけ仕事をしたくないからである。すると会社も黙ってはいないだろう。「わかった。着替えも業務の範囲だと認めよう。その代わり3分で着替えろ。1分でも超えたら、その分減給だからな。」
 ルールを決めた方が公平で公正だと思う人は多い。しかし、ルールは人を縛る。ルールが多ければ多いほど、人間関係は窮屈でギスギスしたものになる。休憩時間は10分。そう決まっているからといって、ストップウォッチで測る上司はいまい。1分でも過ぎたら給料から引くなんて言われたら、何分あったって休んだ気がしない。それなら、「いいよ、いいよ。今日はそんなに忙しくないから、ゆっくり休んで。その代わり、毎朝始業時間までにはちゃんと着替え終わってね。」そう言われた方が、どれほど快適か。
 私だってタバコが体にいいとは思ってないし、喫煙者に対する風当たりが強いことくらいは知っている。だから「タバコ休憩くらい許して」というのが分が悪い意見だということは認める。でも、その際ひとつだけ気づいてほしいのは、そうやってルールを厳しくすれば厳しくするほど、自分の首も絞めているのだということである。人間は自分勝手な生き物なので、自分にできることは当然ほかの人にもできるはずだと思ってしまう。それで自分に要求していることを、ほかの人にも同じように要求する。オレがこれだけ頑張っているんだから、お前も同じように頑張れ。オレがこれだけ我慢してるんだから、お前も同じだけ我慢しろ。人間関係のトラブルは、たいがいがここに端を発するという気がする。


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