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や す も の ─ 安 物 ─

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養老まにあっくすエッセイ集①
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2020年11月の記事一覧

単純な真理よりも複雑な事実

【書評】『神は詳細に宿る』養老孟司=著/青土社 𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  養老孟司待望の新刊である。しかも、出版社はかつて『唯脳論』を上梓した青土社。いやが上にも期待が高まるではないか。題名はアビ・ワールブルクの「わが愛する真理の神は、一つ一つの細部に宿りたまう」という言葉を想起させるが、なんとも養老先生らしい。  養老先生の名言に、「真理は単純を好むが、事実は複雑を好む」という言葉がある。たしかに真理はいつだっていたって単純だが、でも事実は複雑ですよ、と心のなかで

事実の正しい認識

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  個人名を出して申し訳ないが、先日女優の江口のりこさんが朝の情報番組に、本人としては初めて生出演されたというその模様について、いくつかの記事を読んで非常に面白いと思った。  ある記事では、「下を見たまま、テレビ的な笑顔は一切なし」「生放送、初めてなんで。いやですね」など、やる気のなさ全開な様子が述べられている。挙げ句の果てには、司会の加藤浩次さんが「もう二度と番宣に来ないでください」と、出演NGを出したとか。  ところが、別の記事では「うつむい

手帳の余白

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  「手帳は余白を埋めるためにあるのではなく、余白を空けるためにある。」そう言ったのは、「超」整理手帳を考案した野口悠紀雄氏である。たしかに、私も余白が空いているとついそれを埋めたい衝動に駆られてしまう。そのたびにこの言葉を思い出している。  養老孟司氏は、「手帳に書かれた未来は現在である」と言った。これはやや踏み込んだ表現だが、正鵠を射ている。どうなるかまだわからないのが未来だとすれば、そうなることが決まっている未来とは、もはや現在に近い。