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ま け い ぬ ─ 負 犬 ─

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養老まにあっくすエッセイ集③
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2020年10月の記事一覧

成長は続くよどこまでも?

𝑡𝑒𝑥𝑡: 養老まにあっくす  全日空が五千億の赤字だという。私自身は航空業界とは何のかかわりもないのだが、父と生前の祖父が航空会社に勤めていた(※全日空ではない)。祖父の若い頃については詳しく知らないが、父は文字通りのヒコーキおたくである。米国は軍事費におびただしい税金を注ぎ込んでいるので、その還元なのか、各州に航空関係の博物館が一般公開されている。私も幼いころ連れて行かれたことがあるのだが、まぁあのときばかりは父親の方が子供であった。  しかし何の因果か、祖父から父へと

トロッコ問題の罠

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  トロッコのレールが行手で二つに分かれている。一方にポイントを切り替えれば五人が犠牲になり、もう一方に切り替えれば犠牲者は一人になる。五人の命を救うために、一人の命を犠牲にしてもよいか。いわゆる「トロッコ問題」である。かつてマイケル・ザンデル氏の「白熱教室」で取り上げられ、ご存知の方も多いと思う。  ポイントは、選択肢が二つしかないという点にある。たとえば、大声を出してレールの先にいる人にどいてもらうとか、トロッコ自体を破壊してしまうという答え

加害者

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  安楽死の問題を考えるとき、しばしば見過ごされがちな論点があると思う。それは、誰がその役割を担うのかということである。露骨な言い方をすれば、誰に殺させるのかということである。  海外では安楽死が合法的に認められている国もある。しかし、そこに関わる医師の少なくない人数が、数年と経たずに辞めていくと、ものの本で読んだことがある。正しいという信念を持って携わる人間が耐えられない。あるいは、ドクター・キリコのように平気な人間がいたら、その人にそんなこと

シンギュラリティ

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  最初に断っておくと、「シンギュラリティ(singularity)」というのは、巷間に流布しているように、「人工知能が人間を超える」という意味では本来ない。1よりも小さい数どうしをいくら掛け算しても1より大きくなることはないが、1.1でも1.001でも、1より少しでも大きな数は、掛け算すると無限に大きくなっていく。このように、AIが他者の手を借りずに、自律的に自分自身よりも能力の高いAIを作り出す特異点のことを「シンギュラリティ」という。  し