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末吉里花さんと考える、エシカル消費とモノづくりのヒント。

ものづくりにかかわる仕事をするなかで、心の片隅にずっとひっかかっていることがありました。

ものがあふれるいまの時代、次々に商品を生み出し、お客様に届ける。それは環境負荷に加担し、サステナブルな社会を後退させていることではないか? ということです。

悩んだら先輩に聞こう!

ということで今回は、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花さんにインタビュー。末吉さんが続ける「エシカル(倫理的消費)」の考え方に沿った、エシカルなモノづくりのかたちについて相談しました。

企業の中でSDGsやサステナビリティの実践になやむ、同士の方々にも届けいたらうれしいです。

サステナブル・SDGs・エシカル。3つの違い、わかりますか?

――今日は感激しているんです。実は私がエシカルやサステナビリティに興味を抱いたきっかけは、末吉さんの書かれた書籍(『はじめてのエシカル』山川出版社)だったので。

末吉さん:おー。うれしい。ありがとうございます。

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――いえいえ、こちらこそ。末吉さんは最近、首相官邸にも行かれてオピニオンを発せられていましたね。

末吉さん:2050年に温室効果ガスの輩出をゼロにするため脱炭素社会を目指す「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」があり、そこにエシカル協会の代表として参加。菅総理に民間団体代表として、生活者の声を届け、提言をいたしました。

カーボンニュートラルのような挑戦は、国や政府が大きな旗をふってもらわないと実現が難しい。ただそれと併せて、市民であるわたしたち消費者が、原動力となる必要がある。その大切さを訴えました。

――すばらしいですね。そうした活動の起点になっている「エシカル」の意味から伺っていいですか? というのも「サステナブル」「SDGs」「エシカル」といった言葉が飛び交いながら、実はきれいに関連づけれない方も多いと思うんです。私もたまに混乱します(笑)。

末吉さん:そうですよね。

まずサステナブルは「持続可能な」という意味。最初に社会課題の枠組みで使われたのは、1980年代に国連がまとめた『地球の未来を守るために』という報告書です。そこでは「現代世代と未来世代の衡平性の担保」のためにサステナビリティが必要だと説いています。

――公平性ではなく「衡平性」、バランスなんですね。

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末吉さん:ええ。現代の発展だけを見て経済成長や環境保全を考えるのは違うんじゃない? それは今は利益になっても、将来の世代には不利益にならない? と視座を高くすることをすすめている。すると必然的にサステナブルになっていくわけです。

つまりサステナブルとは世の中が目指すべき状態、世界観のようなものかなと。

――なるほど。ではそのサステナブルを「エシカル」にひもづけると?

末吉さん:エシカルは「倫理的な」といった意味を表します。ようはルールや法律とは違って、心の中にある内なる規範というか「ものさし」なんです。

自分のことだけ良ければいいのではなく、自分以外の人や地球環境、社会、そして未来の人たちを思いやってやさししくありたい。そうした倫理的なものさしをもって消費や生活、経済活動をしていきたいねというのが、エシカルの考え方です。

つまり、サステナブルな世界をつくるために、一人ひとりがエシカルなものさしを持つ、ということがとても大切なんだよ、ということです。

――「SDGs」はどう関連づけられますか?

末吉さん:SDGsは2030年までにサステブルな社会を実現するために設定された具体的な「目標」です。

サステナブルな社会をつくるためには、エシカルなものさしが必要だけれど、それだけでは具体的なアクションを継続しづらい。そこで具体的な数値目標もふくめたいわば世界との約束を、国連がSDGsによって定めたわけです。

整理すると、「サステナブル」な世界をつくるためには、私たち一人ひとりが「エシカル」なものさしを持っている必要があり、それを実現するための具体的な目標で、推進力となるのが「SDGs」、といった感じでしょうか。

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――末吉さんが「エシカル」に軸をおいて活動されているのは、私たち一人ひとりの価値観という「ものさし」に訴えかけているわけですね。

末吉さん:心の中にあるものさしなので、大切なのは教育、啓発なんですね。だから私たちは積極的に、学生の方々、とくに小学生などの小さな子たちに、エシカルな考え方を伝えています。

その時に大切にしているのが、「人や地球に対してやさしくできる人は、自分自身も大切に扱うことができている人だ」ということです。自分自身を大切に扱うとは、人間も自然の一部だから自然に敬意を払ったり、太陽と月のサイクルにあわせて暮らしたり、身体に良いものを食べたり、自然の中で時間を過ごす、といったことです。そういったことができれば、きっと子どもたちは周りに対しても自然とやさしくいられるのではないでしょうか。

その結果、社会や時代が変わっても、間違いなく「未来世代の衡平性」を考えた行動をしてくれると信じています。

――エシカル協会では具体的にはどのような活動を?

末吉さん:エシカル協会は2015年に立ち上げた一般社団法人で、「エシカルな暮らし方を幸せのものさしに」というミッションを掲げて、エシカルな消費行動やライフスタイルを日本や世界にむけて普及していくことを目的とした活動をしています。

3つの事業の柱があって、1つ目はエシカルについて学び、啓発してくださる仲間を増やす「エシカルコンシェルジュ講座」という協会認定講座の実施。2つ目は日本全国の学校や自治体、企業に向けた「講演・講義活動」。そして3つ目は法人向けの事業として、「法人会員制度」を設けて、エシカルな企業を横につなげていく役割を担っています。

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エシカル消費は「自分のため」。

――エシカルを根付かせるためには教育が必要。とてもよくわかります。ただ素直に吸収してくれる子供たちより、私たち大人に伝えるほうが難しい気もします。どこか頭が硬いというか「わかるけれど、目の前の経済、経営がまず成り立たなければ」と考える方は当然多い気がして......。

末吉さん:そうですよね。「どう伝えるか」という伝え方はとても難しいと思います。何か倫理観なんていうと、すごく上から目線の説教くささを感じられちゃいそうで、ね?(笑)。

――そうなんです。私もハリズリーという会社でサステナビリティ・マネージャーをしているのですが、なんだかそう思われていそうで怖いです(笑)。末吉さんは、とくに大人向けにエシカルの考え方を伝えるときに意識していることはありますか?

末吉さん:エシカルな消費活動は、「楽しい」と伝えることですね。

他人のために地球のために「我慢して苦労して」成し遂げることなんだ、といっても人は動かない。その時は動いたとしても、それこそサステナブルにはできないと思うんです。

私自身が、まさにそうした「楽しさ」や「喜び」をエシカルなライフスタイルに実感している。それを伝えるようにしています。

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――末吉さんが感じる、エシカルの楽しさ、喜びとは?

末吉さん:ひとつは、ラクになりました。

以前の私はファッションが大好きで、いつもシーズンのトレンドを追って、それに身を包むことに情熱を注いでいたんですね。ただ、そうしたトレンドの洋服、あるいはコットンなどの原材料が環境破壊や児童労働などの人権問題を考慮しない生産背景でつくらていることがある現実を知りました。とてもショックで、以来、フェアトレードや環境負荷の少ない工程で洋服をつくっているメーカーのものしか買わない生活になった。

――いわゆる「エシカル消費」ですよね。それがラク?

末吉さん:トレンドを追う必要がなくなったからです。

トレンドに敏感だった頃は、いつの間にかみんなが良いと思う洋服が、自分にとっても良いと思っていましたし、企業の広告に掲載されているものが素敵だと感じていました。完全に企業の思うツボだったわけです。

エシカルという倫理的なものさしを得たことで、そうした呪縛から逃れられ、いつも自然体でいられる。肩の荷が降りたような気がした。それはとても心地よい場所でした。エシカルは目くじらを立てて我慢するのではなく、ラクちんな世界だったんですよ。

――エシカルは本当の意味の自分本位というか、自然体でいられると。たしかに、SNSを覗いて他人の生活をうらやむ人って多いと思うのですが、エシカルのような価値観が自分の内側にあると少し違ってくるのかもしれません。

末吉さん:人とのつながり方も変わると思うんです。

たとえば、エシカルを意識してから塩麹やハーブなどを手作りするようになったんですね。それを仲のいいご近所さんにお分けするようになった。すると、逆に庭でとれた野菜や果物などをいただいて物々交換がはじまるんです。

気づけばご近所づきあいは強くなっていくんです。たとえば、コロナ禍の最初の頃、トイレットペーパーが品薄になったじゃないですか? ああいうときもお互いに「うちはたくさんあるからあげるよ」と当たり前のように譲りあえた。

お店で買えないから終わり、ではなくて、近所同士で支えあえる。そのほうがサステナブルだと思うんですよね。

――おもしろいですね。とくに都市に生きる私たちは、利便性や合理性を高めてきた結果、他者とつながらずに生きていける流通システムをつくり、慣れ過ぎてきた。でもそれが実は脆いものだと。

末吉さん:そういう一面があるかなと。

かつては生産者や市場、あるいは八百屋さんに出向いて、あいさつして、野菜の良し悪しの判別法を聞いて、無駄話をして……ようやくトマトを買った。けれど、今はそんな面倒などいらず、誰とも話さずに、お金を払えば、スーパーやコンビニで自動販売機のようにトマトは買える。

ただ、それがどこでどう作られたかは見えづらく、またいざというときに支え会えるような人間関係も築きづらいですよね。利便性を突き詰める中でスポイルされてきた、そうしたつながりがある。けれど、今は無くしたそのつながりのほうが切実で、価値が高く、意識して取り戻す必要があると感じます。

わずらわしい、と感じられた繋がりがあるほうが、実は自分のためになるんですよね。

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参画型のモノづくりで、“解決の一部” になる

――私が務めるハリズリーという会社はモノづくり企業の集合体で、ある意味、トレンドをつくっている側でもあるんですね。だからこそ「モノづくりをする側のエシカルな責任」が問われていると日々感じているのですが、形にするのが難しくて。

末吉さん:ある種のジレンマを抱えていますものね。

――どのような姿勢をもって、意思表明していくべきでしょうか。

末吉さん:私も、モノづくりをされている企業とのつきあいは多くて、いつも皆さん悩まれています。もちろん、「モノなんてつくらないで」というつもりはないんですね。私たち人間はある程度のモノがなければ生活できない。適正な数の適正な作り方をされたものを買い、使う必要があるわけです。

ただ、モノづくりをすることが環境負荷につながることは当然ある。なので、できるだけ負荷を少なくするためにとアクションを起こす。その両方を、しっかりと伝え、実践することが大切だと思います。

――いわば、いいところばかりアピールしない?

末吉さん:難しいでしょうけどね。ただ、パタゴニアの例はとても参考になります。

かつてニューヨーク・タイムズにフリースのジャケットの写真と共に「DON'T BUY THIS JACKET(このジャケットを買うな)」のコピーをつけた広告を掲載したことがあります。まさにものづくりをしている企業が抱えているジレンマを、そのまま伝えたわけですよね。

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出典:パタゴニアWebサイト

――環境負荷を考えたエシカルな企業活動をしたいと思って、そういう社会をめざしているが、矛盾した存在である。そう宣言することで、むしろ誠実さが伝わりますよね。

末吉さん:パタゴニアはまた「リサイクル率が現在何%で、20◯◯年までには何%まで達成させたい」と明確な現状と、目標を数値で開示しているんですね。

できてない現状と、目指すべき数値。その差分を公開することで、より強いコミットになる。

――そうですね。「サステナブルを目指します」と、ふわっとした宣言だけで終わらせないということですよね。

末吉さん:目標を掲げたうえで、失敗してもいいと思うんです。しかし、少し上の目標を明確にしないと、チャレンジができないし、乗り越えるためのアイデアも出てこない。

エシカル消費やサステナブルの世界ははじまったばかりで、まだ若いんですから、全然トライ&エラーを繰り返していい。むしろ今の段階だからこそ、失敗できるいい時期だと思うんです。

――そうした挑戦の意味で、まだまだ私たちモノづくり企業にできること、売り方、作り方があると思うのですが、なにかヒントになることはありますか?

末吉さん:モノづくりの工程にまで消費者の方々を参加させる、エシカルなモノづくりのストーリーを一緒につくる。そんなかたちに可能性を感じています。

たとえば、私たちの協会も支援している「服のたね」プロジェクトというのがあるんですね。

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出典:服のたねプロジェクトサイト

――あ、コットンを種から育てるところから服をつくって、それを購入できるプロジェクトですよね。

末吉さん:そうそう。自宅でそれぞれオーガニックコットンを育てて収穫。参加者からコットンを集めて、みんなで、デザインから考えたシャツや靴下などを仕立てる。1年かけて自分が育てたコットンが服や靴下など製品になるという仕組みです(今年はスニーカーを作る予定)。
買い手から作り手へのシフトですよね。すると、「コットンってこんなに繊細な植物なんだ」とか「靴下一足つくるのってこんなに大変なの」と分かるんです。私も実践しましたが、「シャツのこのあたりは私が育てたコットンかな?」なんてワクワクしたり(笑)。

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出典:服のたねWebサイト

――大変さを自分ごととして実感できれば、愛着もわくし、大切に使いますよね。

末吉さん:作り手に一歩踏み込むと、実は「エシカルウォッシュ」といわれるような、エシカルなふりをしてただお金儲けをしているような会社、作り手を見分けられるようにもなるんです。きちんと環境や人に配慮したものづくりをしていたら、絶対にこの値段で販売はできないはずだぞ、というようなことがわかるわけです。

消費者としての価値観が変わるんです。単純に「楽しく」もありますしね。こうした、買い手と作り手をまぜあわせるようなしくみはとても魅力的で誠実で、みんながエシカルな世界観を共有するとてもいいやり方だと感じています。

――実は、私たちハリズリーは「温故創新でつかい手も、つくり手も、豊かにする。」というミッションを掲げています。まさに両者をつなぐ豊かさがエシカルの軸で兼ねられそうな気がしてきました。実際はそうカンタンにはいかないでしょうけど。

末吉さん:そうですよね。こうした活動は、「言うは易し、行うは難し」だと思います。私自身、何度もくじけそうになってきた。最初の頃はエシカル消費などをうたっていても「それって利益に繋がるの?」「何それ、宗教?」と揶揄されてきました。

――その悩まれていたときに、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードさんの言葉に奮い立たされたんですよね?

末吉さん:そう。イヴォンさんにお会いする機会がありそこで悩みを打ち明けたんです。そのときに言われた言葉が忘れられません。

「いまキミが活動をやめれば、キミも問題の一部になる。しかし、キミが活動をこのまま続ければ、キミは解決の一部になれるんだ。人は、何を言うかではなく、何をするかでその価値が決まる」と。ようは行動あるのみということですよね。これはすごく勇気づけられたし、今も活動を続けられているエンジンのひとつですね。

――こちらもとても勇気づけられ、心に染みました。
私も解決の一部になれるよう続けていきます。本日はどうもありがとうございました。


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<過去のnoteのご紹介>

「ジュリーさんにこんな背景と思いがあったとは...!」とまわりから驚かれたnote。きっといつも、ふわふわと見えるのだと思います。

スウェーデンへの興味があふれ、いてもたってもいられなくなって最初に起こした突撃インタビューnote。とても温かく受け入れてくださいました。

とにかくいろんな情報をインプットしては考える毎日ですが、これからも「知ること」はやめずに向き合っていきます。

ありがとうございました。

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