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リプレイ小説「三人は傭兵」#13

Session5 その女の名はない

Chapter1 決闘商売

 三人が砂漠の王国から、根城にしているフラットニードルへ戻り一か月ほどがたった。その間、三人は毎日何をするわけでもなく、ブラブラと日がな一日過ごしていた。
 そんなある日、三人は馴染みの酒場で酒を飲んでいた、日はまだ高い。ゴンザは二人に先ほど西方から流れてきた傭兵から聞き知った噂話を話して聞かせていた。
 それは傭兵団・雷鳴に関する話だった。長らく傭兵団・雷鳴の本隊は西方の遠征に雇われ活躍していた。しかし数か月前に突如、解雇されたというのだ。そして本隊は現在、本拠地のドワーフの王国・黒鉄の国への帰途にあるという。
 なぜ解雇されたのか?もちろん傭兵団・雷鳴の戦働きが悪かったわけではない、その様な事が今まであった試しはない。勿論ドワーフ髑髏ヶ丘の戦いを除けばではあるが。……
 理由は略奪にある。勿論、傭兵の三日間の略奪は正当な報酬を得る為の権利である。しかし彼らの略奪ぶりはドワーフの強欲さを差し引いても、苛烈なものだった。そのあまりの酷さに味方の兵士も彼らをイナゴと蔑んだ。そして時には、三日を超えての略奪を行った。それが遠征軍の総司令官の耳に入り、解雇となった。
 ゴンザが話終わると、店の主人が話しかけてきた。
「旦那方にお客がみえておりますだ」
 主人の後ろには、高級そうな白い布であつらえた服を着た四十代くらいの男が立っていた。上品で柔和な表情をしていて、大きな商店の主といった感じだ。
「私の名はローゼンと申します。ロス・シーワード公の使いで参りました」
ロス・シーワードの名をゴンザとヨイチは知っている。それはかって二人が賞金稼ぎ・毒蛇に雇われて暗殺者の追跡をした際に、図らずも敵対した王都の豪商・バンボクの別名であった。
 バンボクは元は身分の低い商人であるが、没落した名家のシーワード家の養子になり公爵の身分を手に入れていた。そして没落した別の名家から妻を娶り子ももうけていた。
 しかし離縁したはずの前妻はいまだに王都の屋敷で以前通り暮らしているという。そして買い戻したシーワード家の旧領にあらたに豪華な屋敷を建設し、貴族の正妻と子供はそこで暮らしている。
 「あなた方にはバンボクと言ったほうが通りがいいでしょうね。私はバンボクの息子です、父があなた方に頼みたいことがあるのです」
 ヨイチとゴンザは怪訝な表情を浮かべた、自分たちはバンボクの邪魔をした恨まれているのは間違いない。
「あの一件ではお互い立場上、相対することになりましたが、あなた方は元々成り行き上とはいえ父の命を救おうとしてくださった、それで、」
「俺たちは気が短いんだ」
 ヨイチが言った。
 ローゼンは話をさえぎられたが、微笑みながら言った。
「それでは単刀直入に。あなた方のどちらか一人にある男と決闘をして頂きたい。」
 ヨイチは少しおどけて言った。
「決闘と言えば、ゴンザにおいて他はないな」
 ローゼンは話を始めた。
「我が国の決闘には然るべき理由があれば、決闘に代理人を立てる事が出来るのはご存知でしょう。
ケイネス男爵という貴族がいます、もう六十代にもなりますが血の気の多いことで有名です。若いころから決闘が趣味というような御仁です。
年をとって足を悪くしてからはその”趣味”のほうも控えていたのですが、数年前にマーティンというどこの馬の骨とも知れぬ男を遠縁のものだとか言って屋敷に住まわせるようになりました。そしてまた決闘病が始まったのです。
例のマーティンという馬の骨が代理人となりました。このマーティン剣の腕が立つ。並の腕前では歯が立たないのです。そしてこれが酷薄な男でして、相手が降参する前にその喉を小剣で切り裂いてしまうのです。
五人ほどで殺された頃には代理人のなり手が全くいなくなってしまったのです。青くなったのは決闘を挑まれていた貴族です、代理人がいなければ自分がマーティンと戦はなくてはいけない。その貴族は慌ててケイネス男爵に裏で謝罪をいれ、金を積んで決闘の件を水に流してもらいました。
この時にケイネス男爵は気が付いたのです。これは商売になると。
それからのケイネス男爵は非常に商売熱心になりました。ありとあらゆるパーティーや集まりに顔を出し何かとつけて喧嘩を吹っ掛けまくる。そしてケイネス男爵は人を怒らせる天才でしてな。みんな分かっていても決闘をする羽目になる。そして裏で金を払うわけです。
そのうちにみな貴族はケイネス男爵に秘密で集まったりするようになりますが、どこからか情報を聞きつけてケイネス男爵はやってきます、何だかんだと門前払いをしようとするとそれを理由に決闘を申し込むといった具合です。
最近では隠し切れないような大きな催しでは、主催者が事前にケイネス男爵に金を渡しておくのが常識となっています。金額に満足であればケイネス男爵はその場に来ないか、来ても機嫌よくしています。しかし、金額が少ないとケイネス男爵は賓客に決闘を申し込むのです。主催者は決闘を売られた賓客から金をケチりやがってと恨まれるわ、金をケチった事が周りにばれて恥をかくわとまさに踏んだり蹴ったりというわけでして。
そして最近、ケイネス男爵へ事前に払う金額がどんどん高騰しておりまして、有力な貴族がこぞって我が父に相談を持ち掛けたのです。そして我が父はあなた方の事を思いいたったのです。あなた方であればあのマーティンを倒すことが出来ると。
多くの有力な貴族がマーティンの死を望んでおります。報酬は高額です。」
 そしてローゼンが三人に提示した金額は決闘の代理人としての報酬としては破格のものだった。三人は最近、傭兵団を作ろうと計画していたその金額はその計画を大きく前進させるにたる金額だった。
 ゴンザは言った。
「ヨイチ、悪い話じゃない」
 ヨイチも金額を聞いて乗り気になっている。
 ブライが言った。
「マーティンという男を知っている、通り名は処刑屋マーティン。元は俺と同じような盗賊家業の男だ。小剣と短剣の二刀を使い腕はべらぼうに立つ。4、5人は決闘代理人を殺している。確か一度いい勝負した奴がいたはずだ、しかし突然体が痺れたと申し立てマーティンの武器を役人にあらためさせた。しかし武器に毒が塗ってあるような形跡はなし、決闘は続行されそいつは切り刻まれた。協力者がいるのかもしれん。」
 ヨイチは言った。
「ただ正攻法で倒せる相手ではないようだな。……」
「吹き矢のようなものを使っているのかもしれん。小さな矢なら決闘の最中にどこかへいってしまう」
 ブライは答えた。
「如何でしょう?」ローゼンが三人尋ねる。
 ゴンザが答えた。
「良いだろう、決闘代理人を引き受けよう」
「決闘は王都で行われます。明日の朝、お迎えにあがります」
 そう言って彼は去った。
 次の日の朝、彼らは四頭建ての馬車を次々に乗り継ぎ、一路王都に向かった。

Session5 その女の名はない
収録日:2018/6/10 2018/9/2
使用ルール:ソード・ワールド
GM:山ノ下馳夫
ヨイチ:ミチヲ
ゴンザ:社長

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