松尾芭蕉のどこがすごいのか?

水星のクレーターにも名前のある松尾芭蕉。
海外に行くと知名度は日本以上だったいるする。
結構意外だ。だって、あちこちウロウロしていたおっさんのイメージしかないし。
知っているのも「松島や ああ松島や 松島や」とか俺でも詠めそうだし。

なので、芭蕉がどうすごいのか?を、芭蕉といえば、で分析してみる。

「古池や 蛙飛び込む 水の音」

書き手としていうと、何がすごい?ってここに入っている要素がすごい。
視覚情報が2つ。
「古池」という風景を示す静止画。さらに「飛び込む」と言う動画。
聴覚情報「水の音」
文章を描くとき、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など五感のどれを入れるか?をきにすると文章は、面白くなりますが、この17文字に2つ。
しかも視覚は静止画プラス動画。

個別に詳しく見ていきましょう。
「古池や」
この句の生い立ちを言うと、
「蛙飛び込む 水の音」が最初に決まり、
そこに「古池や」が入った。らしい。
(他の候補は「山吹や」だったとか。)
そうなるとかなり煌びやかな句になる。だがあえて、ここは古池。

この古池ってのがすごい。 
「古」がつく言葉を考えてみる。
古新聞・古雑誌、古着、古井戸などなど。
つまり、それは使われていたものに対して使わなくなった感がある。

古池に漂うニュアンスは、使っていない池。
ひょっとしたらすでに干上がっている窪地かもしれない。
そんな人の気配を感じない、寂しさを感じる風景を5文字で表す。
しかも字足らずなので「や」と呼びかけている。

「蛙飛び込む」
蛙ってのは、その鳴き声が句や歌に用いられる。鶯と同じ扱いなんです。
つまり鳴いている姿がメインで使われるのがこの時代なのに、
ケロケロではなくピョコピョコをメインに持ってきた。
さらに、蛙は春の季語とされているので、春の句とされる。
代案にあった「山吹」も晩春。でも蛙もアマガエルになると夏になる。
「古池や」の部分で秋か冬を想像するかもしれない。
ここの句にも代案があった。「蛙飛んだり」だ。
俳句にはそもそもちょっと「笑かそう」的な節があるが
芭蕉は、ここも侘び寂びっぽく飛び込むとおとなしい方を選んだ。
次に音がくるので、そこまではあくまで静かに質素に。

「水の音」
ここまで無音。ここで、初めて音がでる。ここで想像されるのは、
ちゃぽんみたいな音、そして水面に広がる波紋。そしてまた静寂。
そう。水の音以降の出来事さえも想像させる。
一瞬の音の後の静寂がまた静寂を際立たせる。
これは「古池や」で始めた静寂感があってこそ。
そのタメ、が音が鳴った後も静寂を作る。

おまけ
ググっていたら、英訳が面白かったので載せておく。
海外でも有名な句なのだが英語に直すとなんとも。

The ancient pond  A frog leaps in The sound of the water.
(ドナルド・キーン訳) 
Old pond - frogs jumped in - sound of water.
(小泉八雲=ラフカディオ・ハーン訳 )

まず面白いのが時制。キーンは現在形。ハーンは過去形。
わたしは過去形の方が好きだ。
次に違うのが蛙の数。ハーンがまさかの複数形。
確かに日本語では単数、複数は書いていないからわからないが
ここは流石に1匹であってほしいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?