『よつばと!』と夫
家族の共有スケジュールにそっと追加された予定を発見して、笑みがこぼれた。
”よつばと新刊発売日”
アプリにインプットしたのはもちろん夫である。
「Amazonで買う?」
夫に尋ねると、「いや大丈夫。いずれ本屋に寄ったときにでも買うよ」と返された。発売日までチェックしているのに、素直じゃないなぁ。
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ちょうどその発売日。子どもたちが「絵本を見る」と言うので、出先で本屋に立ち寄った。と、すかさず平積みされている『よつばと!』を手に取る夫。「これ買ってくるね!」と、颯爽とレジへ向かった。
「パパ、何を買ったの?」
年長の娘は、そろそろ漫画に興味を覚えるお年頃。
「レジで並んでいた人、全員『よつばと!』を買ってたよ」
無事新刊を手にした夫が、興奮気味に言う。んな大げさなーと笑っていたら、 私たちの会話を耳にした(と思われる)カップルが「あ!もう売ってるじゃん」と話す声が聞こえたので、案外夫の言う通りなのかもしれない。恐るべし『よつばと!』。
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長く読み継がれて18周年――。
夏から始まったよつばたちの世界にも、いつしか冬が訪れる。(中略)約3年ぶりの新刊をお楽しみください。
──Amazon紹介文より引用
5歳のよつばちゃんの日常を描いたこのマンガを、私も夫もほぼリアルタイムで読んできた。 というか、私が『よつばと!』を読んだのは、当時友人だった夫が貸してくれたことがキッカケだった。
夫とは、同期入社で20代前半に出会った。第一印象はここでは書かずおこう。新卒からの数年間、私たちはとある地方で、寮暮らしだった。SNSが発達していない当時、その土地での知り合いは100%会社の人。しかも、同期で女性は私ひとり。
そんな私を不憫に思ったのか、ヒマでもつぶしなよと言いたげに、いくつかマンガを貸してくれたのが、同期だけど一浪で年上の夫だった。妙に面倒見がよかったのだ。
私が夫に持った第一印象が「いいパパになりそう」に変わったのは、『よつばと!』の件があったからかもしれない。マンガに登場する大人たち(とーちゃんやジャンボ)にどことなく似た夫に、安心感を覚えはじめた。一緒に暮らす、ずっと前の話。
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友人関係が長かった夫とは、諸々あって(ここでは書かずおこう2回目)20代半ばで同棲した。私の1Kアパートに、段ボールひとつでやってきた夫の持ってきた本は、『よつばと!』だけだった。
しばらくして、子どもが欲しくなり結婚した。とーちゃんになった夫を早くこの目で見たかった。とはいえ、そう上手くもいかず、えいっと婦人科を受診すると「自然妊娠は難しいかもしれない」と告げられた。
真っ白い小綺麗な診察室でまず思ったのは、夫のことだった。あんなに『よつばと!』が好きなのに、とーちゃんになれないかもしれない……と。
最善を尽くすため、即断即決で治療をすすめ、とても運がよいことに数年後に待望の第一子が産まれた。第二子、第三子は思いがけず早いタイミングで授かり、あっという間にわが家は5人家族になった。
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子育ては「たいへん」の一言では言い表せない。心がポッキリ折れたことも一度や二度ではない。
けれども、娘が慎重にホットケーキをひっくり返したとき、息子が汚れた手をとーちゃんの背中で拭いたとき、子どもたちが嬉々としてドングリや石を拾い集めたとき、この日常が無性に愛おしいと思った。
赤ちゃんだった長女は、今年よつばちゃんと同じ年齢なった。最近、娘の行動をみて、夫とふと目が合うことある。
「ああ、これってよつばちゃんと一緒だね」
言葉にしなくても、同じことを思っているに違いない。
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『よつばと!』の新刊には、ランドセルを買うエピソードがあった。しゃんとランドセルを背負うよつばちゃんと娘の姿が重なり、マンガを閉じてリビングを離れる。
「よつばちゃんも、もうすぐ小学生かー」
いつの間にかとなりきた夫が言った。口ぶりがまるでわが子の成長を語るようじゃないか。
そう思うと、顔がにやける今日この頃なのでした。
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