「終わりよければすべてよし」な日
私が住むマンションの前には、通りを挟んで広場がある。三連休初日の午前中、そこに「やぐら」が組まれはじめた。
窓から広場を眺め、いつもと違う様子に気がついた子どもたちが、「なに?あれ」と騒ぎ出したので、「はいはい、今日はお祭り。夜になったら行こう」と答える。外は生憎の曇り空だけど、おそらく天気はもつだろう。
「やったー」と小躍りする4歳と2歳。部屋の片隅にオモチャを並べて、輪投げの練習をやりはじめた。
「まあまあ、落ち着いて。夜に備えて、今日はしっかりお昼寝しとこ」
なんて私の言葉はふたりに届かず、輪投げの次は「的当て」ごっこ。そんなこんなで夕方5時になった。
提灯が柔らかな光を放ち、太鼓の音が微かに聞こえてきた頃。
力尽きた2歳児がすうすうと寝息をたてはじめてしまった。やれやれと布団にうつすと、4歳児も弟のとなりに潜り込み充電切れ。
仕方がないのでしばらく寝せ、夜7時にふたりを起こす。
「お祭りいく?」と声をかけると、ぱちりと目をさます4歳児。寝過ごした!急げ急げ!!と浴衣に着替える。2歳児には甚平を着せて、キラキラ光るオモチャも持たせ、家族みんなでいそいそとお祭りに出かける。
会場につくとすでにお祭りは佳境。どこも、人、人、人とおおいに賑わっている。夜店は長打の列。盆踊りもはじまった。
「何したい?」と娘に聞くと「カキ氷食べる」との返事。幸いにも、肌寒い日だったため、カキ氷にはすんなりとありつけた。
さあ、お目当てのカキ氷は食べた、盆踊りも踊った、保育園のお友達にだって会えた。遅くならないうちにそろそろ帰ろう?
そう促すと「最後にゲームしてから」という4歳児。ああ、そういえば昼間に「輪投げ」や「的当て」の練習をしてたっけ。
それならばと、ゲームの列を目指して移動すると、
「輪投げ、終了しました」
「的当て、終了しました」
「ビンゴ、終了しました」
列の末尾はどれも「終了」の看板。
「残念だったね。ゲームは終わっちゃったみたい」そう、娘の顔を覗くと「なんでなんでなんでぇぇぇ」と崩れ落ちるように泣いてしまった。
* * *
その後は、へこみ続ける娘を抱えて帰宅し、カレーを食べさせて、お風呂にいれた。さあ、後は歯磨きして寝るだけという時に、4歳児がぽつりと言った。
「今日は最低の日だった。」
「お昼寝、早くすればよかった」
「カキ氷、買わなきゃよかった」
「盆踊り、踊らなきゃよかった」
さっきに、戻りたいぃぃ~!そしたらゲームできるのにぃぃ~!!!と、全力の後悔でまたもや大泣きしてしまった。
そんなことないよ、娘ちゃん。カキ氷、美味しかったじゃん。昼間のゲームごっこ、とっても楽しかったじゃん!!
なんて励ましたところで、娘がつけた「今日は最低の日」という烙印は変わらないだろう…そう考えて、私は何も言えなくなってしまった。
「終わりよければすべてよし」とはよく言うけれど、このままでは娘にとって「終わりダメならすべてダメ」な一日になってしまう。
就寝時間まであと10分。今からでも盛り返せる?ここは母(私)の思いっきりのハグしか…
「どうしたら、ママとギューしたら楽しい気持ちで寝られるかな?」と娘に聞く。
4歳児はぴたりと泣き止み、しばらく考えてからこう言った。
「寝るまで、YouTube みたい」
……うん。分かった。もちろんダメなんて言えないよね。
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