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娘がシールを丁寧に貼る日は。

今朝、4歳の娘と2歳の息子が、顔を寄せあって何やら楽しそうに話していた。

「まつぼっくり、食べる~?」「まつぼっくりは食べられないよっ」「じゃあ、どんぐり、食べる~?」「どんぐりも食べらないっ」「ケーキなら食べられるよ。はいどーぞ」

どうやら、まつぼっくりやどんぐりを食べようとする弟に対して、娘がケーキをおススメしているみたい。ってか、家にまつぼっくりなんてあったっけ?と、覗き込むと、ふたりで保育園のシール帳に貼ってあるシールの絵を食べる真似して遊んでいた。

娘と息子が通う保育園では、年少クラスからシール帳が渡される。毎朝、登園したら、シール帳の日付の欄にシールを1枚貼るのだ。絵柄は季節ごとにかわり、ひと月あたり10種類ほどのシールが用意されている。

「ここにシールを貼るのも、あと4日だねえ」と、娘に話しかけながら、あと4日か……と、自分の言葉を反芻してすこし切なくなった。春は涙もろくていけない。

* * *

4歳の長女は、今年度の途中から、いまの保育園へ通いはじめた。

それまで、姉弟が別々の保育園だったため、同じ園に通わせたいと役所にずっと希望をだしていたのだが。運よく、弟の保育園に入園枠が空いたのが、昨年8月のこと。娘が4歳になるちょうど1ヶ月前だった。

しかし、いざ念願の転園が決まると「これで本当に良かったんだろうか…」「人見知りな娘は、途中入園でクラスに馴染めるのだろうか…」と、不安の波が押し寄せてきた。

娘にとっては、赤ちゃんの頃から慣れ親しんだ園で卒園まで過ごしたほうが良かったんじゃないか。今のところ、娘自身は弟と同じ保育園にいけることを楽しみにしているけど。……でも、「やっぱり前の保育園に戻りたい」と言われたら、私は転園させたことを後悔するだろう。

転園初日の朝は、ぎゅうっと胸が締めつけられるような気持ちで、娘と手をつないで新しいクラスに入った。

――その日から数日間のことは、今でもよく覚えている。

朝、クラスに入ってすぐに、娘がシール帳をリュックから取り出して8月のページを開く。そして、机の上にある「スイカ」「入道雲」「セミ」などのシールのなかから、「今日はどれにしようかなあ」と、嬉しそうに1枚だけシールを選び、8月1日の枠のなかに貼った。

「明日はね、カキ氷にするんだ」と、保育園から帰った後もシールの話をしていた娘。

それからは、しばらく「今日は、何のシールにする?」「うーん。アイス!」「あ、やっぱり花火~!」と。登園前に娘とかわす会話が、8月の私の日課だった。

シールの絵柄が「お月見だんご」や「ススキ」にかわる頃。娘はすっかりと新しい保育園にもなれて、気がつくと娘との会話はシール以外の話題が大半となっていた。

* * *

ここ最近。娘が、時間をかけてシールを貼る日がある。

たくさんの絵柄のなかから、迷いに迷って1枚を選び、そのシールを、枠の中心に1度の傾きも1ミリのずれもないようにと、慎重に貼る。

そんな日は、決まって私自身にすこし余裕がある日だ。

赤ちゃんが朝から機嫌のよい日や、2歳の弟が泣かずに登園できた日に限り、娘はゆっくりとシールを貼る。

渾身の一枚を貼り終えてしまうと、すこし寂しそうに私の傍に駆け寄り、手をぎゅっとする。

私には、娘のその一連の行動が「今日は、いつもより長くママと一緒にいたい……」と、訴えているように見えた(考えすぎかもしれないけれど)。

――2歳児と0歳児にかかりっきりで、長女にはさみしい思いをさせていたのかもしれない。

娘がシールを丁寧に貼る日は。

ふだんよりも長く、ぎゅっぎゅ~っとしてから、「いってらっしゃい」と手を振ることが、私の新しい日課となった。

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