朝食は、いちばん好きなものを食べよう
「おかぁさぁぁん、お腹、空いたぁぁぁ!」
子どもが布団のうえにドスンと乗っかり、私の朝ははじまる。
うーん。今日はどっちかな?
重すぎる瞼をあけて確認すると、そこにはどアップで長女の顔。あ、お姉ちゃんのほうか。
「何が食べたい?」と聞くと。
「グラノーラ」と即座に答える娘。最近のお気にいり朝食らしい。
「グラノーラは、牛乳かける?それとも、ヨーグルト?」
「……牛乳、あ!やっぱりヨーグルトにする!!」
「はーい。じゃあ、今日の朝ごはんは『ヨーグルグラノーラ』ね」
そう言って、よいしょと起きあがり台所にむかうと、「ヨーグルグラだってぇ…グルグラぁ…」と娘がクスクスと笑いながらついてきた。
* * *
4歳の長女は、「食べない子」だった。
過去形なのは、最近になって「ちょっとだけ食べる子」になってきたから、なんだけれど。
3歳頃までは、食事のたびに「いやだ」「たべない」のオンパレード。
そんなわが子にバランスよく食べさせようと、朝早くから台所にたち、こまかく刻んだ野菜ミックスとウインナーで、チャーハン、オムライス、カレー、コンソメスープ。定番のお子様メニューの数々をつくっては「今日はどうだ」とばかりに朝食にだす。
しかし。
「いや!」の一言にいつも撃沈。
そのあとは出発時間ぎりぎりまで「長女ちゃん、少しでも食べないと保育園でお腹空いちゃう」「いや!!」のラリーを続け、なんとかバナナとヨーグルトだけを食べさせて家をでる日々。
たまらず、保育園の担任の先生に相談すると。
「え、長女ちゃんが?意外ですね。園ではお昼ごはんをしっかり食べていますよ」とのこと。
まさか!?信じられない……という顔の私に対して、先生はこう続けた。
「長女ちゃん、園では食事をとても頑張っていますから、安心してください。朝ごはんは、食べられるものを食べてきてくださいね。バナナでも、ヨーグルトでも」
……そっかぁ。頑張らなくてもいいのかな。
先生のその言葉で、食事づくりに消耗していた当時の私の心は、ストンと軽くなった気がした。
「朝は、みんな好きなものを食べようか」
毎朝、娘に対して「何が食べたい?」と聞くことが私の日課になっていった。
* * *
そうそう。3児の母である私の朝は(おそらく世の中のパパママと同様に)おそろしく慌ただしい。
すこし前までは仕事をしていたので、4歳と2歳をつれて7時すぎに家をでていた。
いまは、3人目の育休中で、すこし余裕はできたけれど。
生後間もない赤ちゃんを含む3人の子を、ひとりでみる朝の時間は「慌ただしい」の一言に尽きる(夫は、子どもが起きる前に出社することが多い)。
正直いうと、チャーハン、オムライス、カレー……リクエストされても準備する時間ないよね(笑)
「朝ごはんは、何食べる?」に「グラノーラ」と答えた娘に対し、内心ガッツポーズする私。
娘といえば「グルグラ、グルグラ、」と拍子をつけて歌いはじめた。
私はその間に、冷蔵庫からプレーンヨーグルト、戸棚からフルーツグラノーラをだして、ぽんぽんとカウンターの上に並べる。
今朝は、下の子がまだ起きていないから、気持ちに余裕があるぞ。
「グルグラにバナナいれる?」と、娘に聞くと、「あ、いるいるー」と、いいお返事。
バナナを1センチ角に切る。そのうちに、2歳の息子も起きてきた。
「今日の朝ごはんはねぇ、グルグラ!なんだって」
さっそく弟くんに教える姉。「うわぁぁぁい」と、なんでも喜ぶ弟。
「はい、ふたりとも。台所仕事はおしまい。テーブルいくよ」
みんなで手分けをして、朝ごはんを運ぶ。
弟くんはスプーンとお皿もって、お姉ちゃんはヨーグルト。私はグラノーラと小さく切ったバナナ。
さ、朝ごはん朝ごはん。と席につくと同時に、
「ふ、ふ、ふ、、、、ぎゃぁぁぁ~~」
ベビーベッドで気持ちよく寝ていた0歳児が泣きはじめた。あららら。お母さんはちょっと赤ちゃんの相手しなきゃねぇ。
「長女ちゃん、グラノーラとヨーグルトとバナナをお皿に入れてもらってもよい?」と、ためしに聞いてみると、「やる!」とはりきる娘。
「弟くんの分もお願いしまーす」
「わかりましたー」
4歳ともなると、こんなにお手伝いが出来るようになるのかぁ…と、なんだか胸が熱くなる。
さてさて、ミルクをつくり、泣いている0歳児のもとへ急ぐ。
横目で子どもたちの様子をみると、長女が豪快に袋に手をつっこみ、グラノーラをわしづかみ。そのままお皿へ、ぐしゃっといれる。
あーあー、テーブルにも床にもボロボロこぼれているじゃないか……。
やれやれと思うけれども、まぁ、好きなようにさせておく。
つぎは、ヨーグルトの容器にスプーンをいれ、丁寧にお皿まで運ぶ......って長女ちゃん!ヨーグルトとお皿の距離が遠いよ!それじゃ途中でこぼれちゃう。と思いきや、ここはセーフ。
最後は、バナナをちょんちょんとお皿にトッピング。
テーブルのまわりはグラノーラだらけだし、4歳と2歳は口のまわりにべたべたとヨーグルトをつけて食べはじめた。
うん。でも、まぁ上出来な朝だよね。
子どもたちは、朝から好きなご飯をたべてご機嫌だし。
私も、(今のところ)笑顔。
「朝ごはんは、食べられるものを食べてきてくださいね。バナナでも、ヨーグルトでも!」
あのときの保育園の先生の言葉を、これまで何度もおまじないのように唱えて朝を過ごし。
3児のお母さんになった私は、ずいぶん強くなったのだ。
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