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明日、この街で

いつもより遅い春が幸いし、5月だというのに桜が満開だった。

「桜も温泉も同時に楽しめてラッキー」

はしゃぐ妹をみて、母が微笑む。

初めての母子3人の旅先は、山間の小さな温泉地。宿について早々、私たちは散策にでかけた。

街の中心に清流、その脇に桜並木。

半袖シャツではまだ寒く、足湯をみつけて早速つかる。

「旅館の夕飯も楽しみだね。ここは海も山も近いから食べ物が美味しいでしょう?」

母の問いかけに、「うん」とだけ答える。

お湯に浮かんだ花びらを弄びながら、私は付け焼き刃な知識をふたりに披露した。

「あの角を曲がると共同浴場があってね、地元の人はそこでお風呂をすますんだよ」

え!温泉がタダなの?いいないいな~と、妹が無邪気に喜ぶ。

「お姉ちゃん良かったね。これからここが、第二の故郷になるんだもんね」

妹が満面の笑みをこちらに向けたので、「うん」とだけ答える。


私は明日この街で、人生最後の振袖を着る。

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ヨリ
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