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燃やす、夏

やばい!まずい!
たった1日と経たずに心境の変化が訪れてしまった!もう「愛してくれて、愛させてくれてありがとう」とか言えない!!!



さっき、彼から正真正銘『最期のお便り』が届いた。新しい住所を知られたくないから送り主のところを同上(宛先と同じ)にしてあったせいで、郵便局員さんに不思議そうな顔で見られたよ。自分で自分に手紙を出すやつになっちゃった。変な恥をかかすな。
開けた瞬間、ぶわっと香水のかおりがした。
あちゃー、こいつまたやってるわ。
ナルシシズムなロマンチストやってるわ。
以前はあんなに嬉しかったそのサプライズもいまの私には響かない。ふざけんな、部屋に充満しちゃったじゃないか。雨なのに換気させるな。


手紙にはなんかいろいろ書いてあったけど、結局よくわからなかった。難しい言葉ばかり並べて悦に入ったような文章を綴る、そんなところが好きだったけどいまはもう「なんだこいつ」という感じ。要するに何が言いたい?嫌悪や侮蔑を通り越して無関心の域に達した女に対して手紙を送るなんて、君はどこまで暇なんだ。どこまで格好付けなんだ。
正直、この手紙を貰うまでは彼との思い出をいい感じにラッピングして保存しておくつもりでいた。それだけ楽しかったししあわせだった。
でも彼は、いまでも私がそこまで彼のことを本気で好きでいるのは想定外だったみたい。「誤算だった」って言われた。はあ?
そんな簡単にパッと好きでいるのを辞められたら苦労しないよ。戦争も起きないし殺し合いもなくなるよ。
いままで彼のことを賢い人だと思っていたけれど、それは確かにそうだけど、やっぱり馬鹿かもしれない。彼は馬鹿だ。


一昨日、彼から「最期に会おう」と連絡が来た。
私は会いたくなかった。
会って声を聴いたらまたきもちが揺らいでしまうと思ったから。だから昨日は会いに行かなかった。
最期に会って話して散歩して綺麗に終わらせる、なんて物語っぽくしてしまったら、多分一生忘れられないし気持ちに踏ん切りもつかなくなるだろうと思って、会うのをやめた。まだ好きだから会いたくない。私のなかでその選択は正しかった。でも彼を幻滅させ憤らせ、無関心にさせるには十分な選択だったらしい。

私が最期に会って話すという"最期の物語性"を拒否したことで、彼の中で昨年の数多の日々の思い出が無に帰したという。
「ぼくは立場の別なく、その人としかできない物語を、どれだけ辛かろうと生きていたいのです」
知らねえよ。私はお前の物語にはならない。


いままでの私は彼と紡ぐ物語(日々)に酔ってたんだな〜
とても居心地よくてきもちよくて最高だったからそうしてた。それが悪いとは思っていない。

数日前、しばらく連絡の絶えていた彼から突然『最期のお便り』と題した別れの手紙を一方的に送りつけられた。私はきもちの整理がつかないまま、でも折角引導を渡してくれたからきれいさっぱり関係を終わらせようと思ったのに、その後もだらだら電話やらメッセージやらを寄越してきたの彼の方だ。"最期"の仕切り直し、"最期"のtake2、take3ってなんだよ。

泣いて泣いて最後には笑ってちゃんと踏ん切りつけたのに。
最期の電話で「もう私のこと好きじゃない?」と訊いて、「うん、好きじゃない」と答えを貰って、それで「ばいばい」と終わりにしたのに。


まだ好きだから会いたくない。
それのなにが悪かったの?
最期に会ってちゃんと物語みたいにきれいに切なく幕引きしたかった?
彼はそんな終わり方を所望した。そのくせ、私がまだ心の底では君のことを好きであるという往生際の悪さを「誤算だった」などと言い放った。
手紙に香水をこれでもかと振りかけて送ってきて、昨年の「23年間生きてきたなかでいちばん幸福な時間」を想起させ、物語のちからを思い知れという。
ほんとうに最期まで君はロマンチストだ。
笑っちゃうくらいベタな。


手紙の終わりには「返事は要らない。香水の香りと馴染みの文面で昨年のことを思い出せばいい。でも、どうかその感傷を共有できると思わないで」と綴られていた。
ちくりとした一瞬の胸の痛みとともに、すっとからだの力が抜けるのを感じ、次いで鼻で笑った。
どうかその感傷を共有できると思わないで?
そのことば、そっくりそのままお返しする。
私が送った手紙も湯呑もすべて棄てて。
もうすでに棄ててあるならそれでいい。

文学性がなくてごめんね。君の思い通りの終わり方にできなくてごめんね。
なーんてね!ここで殊勝らしくするのが彼の好みだったけど、そんなふりはもうしてやらない。


なんだか上手くまとまらないしことばも出てこないけど、これだけは言わせてほしい。
ばーーーーーか!!!!!
私をまたひとつ強くしてくれてありがとな!!!


追加
ちなみに彼は結婚するそうですよ、春に出会った方と。
「彼女はいちばんとかじゃなくて別格、結婚するなら彼女と」とまで言っていた元恋人のMさんでもないのかよ!なんだお前!!!

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