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接吻

愛したい愛したい愛したい。
恋したい恋したい恋したい。

そう思っているうちはあんまりいい出会いに恵まれないというのが世の常で。くやしい。でもほんとうは新しい出会いになんてあんまり興味なくて、考えるのはいつだって君のこと。
なんでー?わたしかわいいのに。毎秒かわいいを更新してるのに。君のためならもっとかわいくなれるのに!
どうして君はここにいないの?

アイス食ってる。
愛、巣食ってる。
愛、掬ってる。
愛、救ってる。
愛す、繰ってる。

同じ部屋でいっしょにアイスを食べても、映画を観ても、朝を迎えても、どうにもこうにもしっくりこなくて困る。目の前にいるきみのことじゃなくて好きなひとのことを思い浮かべてしまう。アイスも映画も朝焼けもぜんぶ、もう先に好きなひとと経験しちゃったから。比べるのは失礼。それぞれにいいところがあるのに。でもやっぱりちがう人間なんだもの、だめね、合わないものは合わない。

私のことを好きなきみを好きになれたら。
なれたら?その先のイメージに靄がかかる。結婚しちゃう?きみの異動先に新居を構えちゃう?
こどもはたくさんほしいんだってきみは言う。産むのは女だよー、知ってる?
自分の名字が好きじゃないから結婚したら姓を変えたいときみは言う。私は自分の名字気に入ってるから変えたくないなー、気が合うね?
結婚式に興味はないけど、もし挙げるならお嫁さんのウェディングドレス姿は見たいからふたりだけで挙式したいときみは言う。私も大々的にやるよりはふたりだけで静かに挙げたいなと思ってたよ、でもチャペルより神前式の方が気になるかも。

SEのきみの仕事の話はよくわかんない。いつもふーんって聞いてる。きみの胃袋を掴むのは簡単だけど、マヨネーズが大嫌いなきみのために献立を考えるのは大変かもなー、私ポテトサラダが大好きだから。血が苦手でグロい描写のある作品を観られないきみといっしょに映画を観るとき、作品選びにとても困るよ。私が選ぶ作品の過半数がバイオレンス・サスペンスだから。



君とは映画の趣味が合う!とてもうれしい。私の知らない作品の良さも教えてくれるし、私の教えた作品を観て正直な感想をくれる。ちいさなサプライズをよくしてくれる君に半分こしたパピコを渡されたあの瞬間、私は恋に"落ちる"を体感した。料理好きで料理上手で、うちに泊まるときはいつもおいしいご飯を作ってくれた。いっしょに行くコンビニもいいけど、いっしょに行くスーパーは特別(格別!)だったなあ。大森靖子ちゃんの『×○×○×○ン 』みたい。
ほんとうはもっと好きなところあるけど、やっぱり私だけの秘密にしておきたいからこのへんでおわりにする。
でもなあ、ここでドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』で早良が言った「もう遅いよ。どこが好きだったか教えるときは、もうその恋を片付けるって決めたときだよ。せっかく自分だけが見つけた秘密だったんだから」という台詞が刺さる。忘れたくなくて記録してるのに、記録したらした分だけ君への好きが擦り減ってしまいそうで怖い。たぶん、ぜったい、きっと、おそらく、そんなことはないはずだろうけれど。

好きなひととは今連絡が取れない。
彼は大学院での研究に専念するために"人間関係リセット"を実行し、研究に関わる人以外との連絡をことごとく絶っている。だから私だけが着拒されているわけじゃないことが唯一の救い。事前にリセットを行うことを予告されてはいたけれど、スイッチが切り替わる瞬間がいつになるのかは彼自身にしか分かりようのないことだった。春の気配が薄らしのび寄ったあの日、彼の名前は「メンバーがいません」に変わった。
君が消える2日前に送った『(大学)卒業おめでとう!』のメッセージに君は気付いてくれていたのかな。大学院入学おめでとうのメッセージも、きれいな空の写真も、見上げた月の写真も、もう、送れない。

ああー、くるしい。
あたまがぐるぐるする。
なんにもまとまらない。
なんにもできないまま、私は来週24になる。
こんなおとなになるはずじゃなかった。

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