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信長 獅子の生 三

獅子の生

尾張の内での勢力争いが激化していた。
鳴海城主の山口教継が織田家を裏切り、信長の領内に侵攻してきた。
清州城家老の坂井大膳が、松葉・深田城を占領。
これは叔父の信光と共に奪還した。

信長には財がある。
祖父、父と、津島の湊、熱田の湊の物流をしっかりとおさえてきた。
それを引き継いだ信長に入る税は、莫大な額となった。
それでも、銭には限りがある。
このまま内乱が続けば、いつしか新兵の登用もままならなくなるだろう。
豪族は、諸勢力が今のところ危うい均衡のうちに成り立っている。
どこかがどこかと結ぶだけで、その均衡は容易に崩れる。
矛先は、だれを差し置いても信長に向くに違いがなかった。
誰もかれもが、湊からあがる銭が喉から出るほど欲しいのだ。
事実、多くの豪族で結託して、
まず信長ひとりを討つべしという空気がある。

兵が足りぬ。鉄砲が足りぬ。兵糧が足りぬ。
この先しばらく、時を稼がねば危うい。
合力してくれる豪族は、尾張の中には居そうにない。
ならば他国と結ぶことはできないか。
駿河の今川か、美濃の斎藤か。

十五の歳に、まむしの娘をめとった。
今川と斎藤に挟まれて身動きがとれなかった父が、
斎藤方の動きを封じるために信長に娶った娘だった。
名を濃と言い、はっとするほど美しいが、子が産めなかった。
それだけだった。
それ以来、まむしとの姻戚関係は、有名無実化している。
今一度、斎藤道三を、この信長の後ろ盾として迎えれば良いのだ。
道三とて息子の義龍と仲を違えて、美濃国内は安定してはおらぬ。
のってくる目は、十分にある。

燭台に細く揺れるともしびを見つめながら、にやりと薄く笑った。
この危地も、乗り切って見せる。
この信長に、いつか天が時を与えるなら、
ここで野垂れ死ぬはずはなし。
死ぬならば、それまでの男だ。
明日、使者を美濃に出そう。

久々に濃を抱いてみるか、と信長は思った。

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