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ANGERSWING#6

新橋駅の地下5階には横須賀線の止まるホームがあって、わたしは朝8時半からそのホームのベンチに座っている。

いつも決まった場所。地下5階から地下1階まで直通で上がることのできるエレベーターの前に座っている。
ここに座っていると人間の人間らしさに触れることができるので面白い。

地下5階からエスカレーターで上がろうとすると地上まで3回ほど乗り換えなければならない。
でもエレベータに乗れば地下1階まで直通なので、便利さは顕著なのだ。

ただエレベーターは狭いし、一度に運べる人数は限られている。するとエレベーターの前には行列ができる。
電車から降りて、その行列に向かう人々のスピード感が非常に人間らしい。少しでも楽に地上へという強い欲を感じさせる。

たまに他者を押し除けてまでダッシュをしている人すら見かける。

この現象でもう一つ面白いことがある。
特急湘南という湘南方面から通勤用として使われている特急電車も新橋駅地下ホームに止まるのだが、特急電車から降りてくる人たちはこのエレベーターをあまり選択しない。少なくともダッシュで行列に向かっていく人をわたしは見たことがない。
特急湘南から降りてくる人たちには余裕を感じるのだ。

朝からわざわざ指定席券と特急券を購入して、湘南近辺から都心部まで出てきているのだから、そもそも余裕のある人たちなのかもしれないが、余裕という言葉を現象として観察できるのでとても面白い。

確かにわたしはこの現象を観察する立場の人間なので、一番余裕をかましているが、もちろん余裕のない側の人間だ。
エレベーターの行列に思わずダッシュしてしまう気持ちが痛いほど分かるし、日々の通勤に特急列車を選択することはできない。

この話は経済的余裕が精神的余裕に繋がっているというような話ではあるが、経済的余裕を必要とせずとも精神的余裕を獲得する術が必要だよねと思う。

余裕のある人が余裕ぶりながら余裕を失っていく様が面白いのだし、余裕のない人は余裕のない人しか演じることができない。
余裕がなければ周囲に目を向けることが難しい。人の話が耳に入ってこない。

「ああ、今の自分、余裕ないな」って気づくところから始める。

今は多分、余裕があるからこの文章を書けているのだヨ。

<日本劇団協議会主催>
日本の演劇人を育てるプロジェクト
新進劇団育成公演

劇団Q+
『ANGERSWING /
アンガーズウイング・アンガースウィング』
ー家族の庭、その香りは秘密をささやくー

脚本=弓月玲 原案・演出=柳本順也

◎日程
2024年7月3日(水)〜 7月7日(日)

◎劇場
下北沢 駅前劇場

⋱チケット発売⋰
2024 年 5月 1日(水)開始

https://www.gekidan-q.com/

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