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「自転車はいい。自分で漕がないと前に進まないからな。」

誰の言葉だったろうか。誰に掛けられた言葉だったろうか。

そうか、これは叔母に貰った言葉だ。



私は毎年、12月30日に叔母の家へお節料理を貰いに行っていた。母が亡くなってから、それが師走の恒例行事だ。

叔母の家にお邪魔すると、私に持たせてくれるお節の準備をしながら、

「お前さん、元気にしとったか?」「いい人は見つかったか?」

いつも尋ねられたものだ。

私は「まぁまぁ」「いやぁ、なかなか」なんてはぐらかして答えていたが、年末ぐらいにしか話さない叔母や従兄弟達との会話は、楽しく感じられる貴重な時間だった。

確かその年は饒舌になり「自転車が好きになったんだ」「ここまで自転車でこれる」なんて嘯いていた気がする。

そんな私に叔母は

「そうか、そうか。自転車はいい。自分で漕がないと前に進まないからな。」

「自分で?」

「そう、自分で漕がんかったら、進まんじゃろ。」


私の覚えている叔母との最後の会話だ。

気がつくと翌春に叔母は入院しており、見舞いに行ったが会話もできず、あっという間に旅立っていった。


叔母からの言葉は随分と刻まれたようで、ふとしたときに思い出す。自転車に乗っている時、パソコンに向かっている時、ボーッとしている時、停滞している時、イライラした時、落ち込んだ時。


私は現在無職だ、自分で選んだ道だ。けれど前に進んでいる気はしている。

「普通」という便利な自動車には乗れていないが、自分の足で、自分の力で前に進んでいる。早くなったり、遅くなったり、時には立ち止まりながら。

私は自転車が好きだ。