誰も知らなかった父さんの涙

結婚式の翌朝、僕はシャワーを浴び、ご飯を食べた後、リビングでくつろいでいた。式の振り返り会をしている姉達と母を背に、スマホをいじりながらテレビを見ていた。


ワイワイキャッキャと話に花が咲いてる中、急に一番上の姉はこんな話を口にした。

「お父さんね、法事の日、ひとりで朝まで飲んでたんだって。」

「おじさんもおばさんも、誰もお酒ついでないのに、ひとりでずっと。」

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毎年5月3日は祖父の法事で、父さんは長男の家に行く(父さんは次男)。儒教では最大の行事なので、本当なら一族みんな参加しないといけない。しかし姉や母をはじめ、父方の親戚は随分前から顔を出しておらず、僕も数年前の揉め事以来、一切そういう行事には顔をださなくなった。
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母さんは少しびっくりした声を出した後、一息おいて、

「遅すぎるよねぇなんて言って、朝4時過ぎまで待っていたもんねぇ…。」

と、あの日を思い出すように言った。


父さんは結婚式の後、遠路はるばる大阪から来てくれた母方の親戚のために、食事会を開いた。

そのとき母さんの弟の奥さんが、

「一番グッときたとこはどこでした!?」

と聞いてきた。

父さんは、

「いい質問だなぁ!」

と笑い、

「まぁねぇ…正直、2,3日前にはもうすでにねぇ…。」

「色々考えてたら、涙が出てきましたよ。」

そう言って、ちょっとだけはにかんだ様子を見せた。

式中は、誰も泣いたところを見ていないし、少し驚いた。


母さんはリビングで続けてこう言った。

「ちょうど昨日言ってたことと、法事の日が繋がるね。」

「私たちには、そう言う姿、見せないもんね。」

家族には自分の感情を見せないし話さない父さんだから、こんな話を聞いた時、初めて彼がどんな人間なのかわかる。いつもそうだ、特に絶対に弱いところは見せない。

「そう…。そうだったんだねぇ…。」

母さんがポツりと最後につぶやいた。



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