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BizOpsという文脈

"BizOpsって何なの?"
"xxOpsなんて名前つけて内輪で盛り上がってどうしたの?"
"別に新しくなくない?"

そんな声があるとして、改めてBizOpsが何なのか考えてみました。

この記事はBizOpsアドカレ 12日目の記事です。ちょっと番外編的な記事を書きました。 前回はTakuya Katoさんによる「エンジニアリングマネージャーから見たBizOpsの景色」でした。

株式会社ユークリッド佐伯です。アドベントカレンダー12日目を担当します。大小SIerでの技術職、プロダクトベンダー(Salesforce)での技術営業を経験後、起業・売却・再起業。かれこれ15年ほどITエコシステムにいます。

エコシステムへの貢献というテーマの一環で、一般社団法人BizOps協会の設立から参画し活動してきました。
私は経歴が他のアドカレ参加者のみなさまと少し異なり、現役のBizOps実務者ではなく、実務者の皆さんを包括的に支援する立ち位置、という人間です。

BizOps協会参画の思いは以下ツイートにしたためています。


キーワード・コンセプトの理解には"文脈"こそが重要

さて、今回はBizOpsを含むxxOpsというキーワードについて考えてみたことがあります。単にITツールでの業務改善を前提とするものではないだろうし、狭義のThe Modelのようなプロセス管理だけを指す訳でもないはずです。

様々なバズワードを眺めてきた私としては、新しいコンセプトワードを理解する際には、その言葉が指す行動や機能ではなく"文脈"が重要だと考えています。

ちなみに皆さんは、クラウドとホスティングの違い、ASPとSaaSの違い、サブスクリプションと従量課金や期間契約の違いを説明できるでしょうか?
IoTとユビキタスでもいいし、カスタマーサポートとカスタマーサクセスでもいいです。従来あるものと似ていて、異なる名前がついたものを説明するのは意外と難しいものです。

言葉の定義には限界があります。
権威性のあるソースを引用したり、使用される技術や機能の違いなど具体に着目する方法もあるでしょうが本質を表現するには不足感があります。

ぶっちゃけ抽象化して考えてしまえば、一緒っちゃ一緒、古い概念と新しい概念でやってることに大きな違いはない、とも言えるわけです。「それ前からあるよ」おじさんの誕生です。

いやいや全然違うよ、と思える人はきっと正しい人です。自分なりのプライドを持って仕事をされているのでしょう。

一方で、世の中をみればサブスクといいつつ、ただ定期課金型にしただけのサービスもあれば、CSといいつつカスタマーサポートと全く変わらない業務を行っている、といったように従来からの仕事に新しい名前をつけているだけの場合も多くあるのが現状だと思います。
では、これら従来のものと、自分たちの取り組みは異なるのだという矜持を、どう持てばいいのでしょうか?

区別すること自体には意味はないと思いますが、
キーワードの"文脈"に着目することで、
なぜあえて名前や形を微妙に変えて登場する必要があったのか?実現しようとしていることの違いは何なのか?
が見えてきます。

例えば、2010年代に本格的に台頭したサブスクリプションの概念について。

以下の図のような形です。

サブスクリプションという概念は表面的には課金形態に見えるかもしれません。
しかし、より早くなる外部環境や多様化する顧客ニーズを捉えよう、顧客を中心とした新しいビジネスへ転換しようという意思、を背景として理解する必要があるでしょう。
何らかを民主化し、対応する顧客課題や解決方法を変え、顧客接点や提供価値の姿すらアップデートしようとした訳です。

こうした強い意志と新しい文脈を持つものだからこそ、”サブスク”という別の言葉で表現するに足るのだろうと思います。

BizOpsと類似の概念

例としてのサブスクの話にそれましたが、話を戻してBizOpsという言葉の文脈について、類似する概念やその違いをもとに考えていきたいと思います。

定義、ではないですがBizOpsには以下のような側面があります。
“経営と現場を横断的に支援し、企業の活動を業務プロセスやデータによって繋げ、最適化しようとする活動やチーム”

この側面だけ切り取ると、
ビジネスアナリシス(BA)ビジネスプロセスマネジメント(BPM)、そしてビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)という歴史ある活動や分野とも類似します。
標準化も進み、ノウハウの蓄積された領域です。

BPMの専門家からすると、現状のスタートアップやIT企業中心に提唱されているxx(なんとか)Opsの活動実態は、もしかすると未成熟で稚拙に見えるかもしれません。

その上で私は2000年代以前から続いてきた前述の分野にリスペクトを払いつつ、
「一見、草の根にも見える”BizOps”という現在のムーブメントには価値がある」
と考えています。

BizOpsと従来概念との違い

私の考えるBizOpsと従来からあるBAやBPMとの文脈の異なりを書いてみます。繰り返しますが、BAやBPMをリスペクトしており否定しませんし、今後も両者は近づきながら発展しあう存在だと考えています。異論は認めます。

要点を述べておくと、ITの民主化以前と、クラウド/SaaS等がもたらした爆発的なITの民主化以降の違いをBizOpsに感じています。

ITは長く大企業の持ち物でした。
パソコンが普及しても、業務システム、基幹システムを本格的に導入・構築できる企業は2000年代に入るまで多くなかったでしょう。

そしてビジネスは長く売り手の時代でした。
商品やヒトを動かして稼ぎ、売り買いや経営に必要なシステムや労働力の確保を優先し、大規模化してシェアを取ります。
すでに大規模化したビジネスがあれば、そのボトルネックを解消するプロセス最適化の取り組みは大きな利益改善に繋がりますので、その段階で投資がかかります。

よってBPM等は、いまある成熟した大きなビジネスと業務を可視化・分析し、課題と改善点を見つけていく、そんな問題解決型のアプローチの色が濃かったように思います。ビジネスが一定成熟した頃、一念発起してプロジェクト的に実行されます。

一方で、2010年後半から現在にかけての背景は異なります。
ITはSaaS等クラウドの普及によって民主化され、小規模低価格で零細企業から利用できます。
ビジネスニーズは多様化し、ネットワーク越しに地理的制約を受けずに運営できる業態も増え、顧客からみた事業者も、事業者からみた顧客も多様化しました。

このような時代においては、市場を勝ち取って大きくなってから、業務・システム最適化という流れは合いません。
ITの活用によって、規模の経済を必要とする圧力は弱まり、小さくとも高い収益性を確保できます。
そして、早い段階からプロセスや仕組みを整え、規模的成長だけではなく、収益性や成長スピードを落とさずに拡大する戦い方を可能としました。

こう考えるとBizOpsの矜持として以下のことが言えるのではないかと思います。

(BizOps憲章”風”)
・BizOpsはある時行われる改善プロジェクト(有期性)から始まるのではなく、予め設計された継続的活動である
・BizOpsは分析・改善よりも、ビジョンとデザインの活動に重きをおく
・BizOpsは問題解決よりも、課題発見に重きをおく
・BizOpsはビジネスプロセスをテクノロジーで改善するだけでなく、テクノロジーを前提に新たなビジネスプロセスや組織のデザインに関与する

BAやBPMのナレッジは現代においても有効な概念ですし、実際、それぞれの専門家の中では、現代や中小企業に合わせてチューニングする動きもあります。BizOpsとそれら両者は近づいています。

BizOpsは、各プロセスの専門家ではなく、プロセスという横串に専門性を持つスペシャリストです。全体最適、横断的な志向性のある分野から学んでいくことは重要でしょう。

BA/BPM、アジャイルアプローチ、デザインシンキング、システムシンキング、プログラムマネジメントとプロジェクトマネジメント(P2M)、こうした横軸に強い分野を守・破・離の守として学びつつ、業界全体のレベルを向上させていきたいと思います。

企業版デジタルネイティブ世代主導で”BizOps”というプラクティスをつくろう

最後に意気込みのような話を書いて終わります。

私は、個人と同様、企業にも”デジタルネイティブ世代”という概念があると考えています。

大企業病、という言葉があるように、その時々に名を轟かせる企業はあれど、企業はベンチャーから大型化していくにあたって従来の大企業と同質化していきやすい側面があります。人が増え、大企業を知る経験者が増え、上場を目指し、古きルールへ適応したり、古き慣習を踏まざるをえない部分があり、”いわゆる大企業と同質化”していくためです。
そのためこれまでは、世代というよりも、企業の成熟度フェーズ、でその内情をある程度捉えることができました。

しかしながら、今後は企業の世代✖️成熟度フェーズによって、企業特性やパフォーマンスが異なる、という時代が来るだろうと考えています。実際、かつてSalesforce社のプリセールスとして数多くの企業様への営業・提案活動を考えていた際にもこの兆候を感じていました。同じ規模・業種の企業でも、課題や取り得る有効なアプローチが異なるのを感じています。

BizOpsという仕事を支える私自身の意図、そのものはとっても個人的なものです。しかし一方、BizOpsには社会的にみて重要な役割もあると考えています。

それは、デジタルネイティブ世代の成功企業をBizOpsのある組織設計や活動で支え、その中で優れた実践知を排出し、今後生まれる多くの企業や大企業のモダナイズや新規事業にとってのリファレンスとなることです。

企業の生産性向上は、上から徐々に変わるのを待つのでは面白くありません。スタートアップからインパクトのある実績をつくり、それを全体に還元していくことで何年も遅れをとる日本の企業活動を前へ進められると思います。

この要(かなめ)になるは、現在様々な魅力ある企業で働くBizOps実務者の皆さんだと思います。今後もBizOpsという新たな界隈を共に創っていきましょう。

いつもながら長い文章を、最後までお読みいただき有り難うございます。

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yousuke saeki(佐伯 葉介)
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