本当の意味で他者は存在しない

もはやテレビが悪いのか？とすら思う程に、見境のないワイドショーは日常に溢れかえっている。
僕が人生で一番興味のない話題は芸能人のゴシップなんだけど、意外と世の中そういうのが大好きな人も多い。誰が不倫したとか、誰が薬をやったとか、正しさを振りかざして怒り狂う人もいれば、馬鹿だななんて楽しそうにあざけわらう人もいて。世の中の自分の知らん人を攻撃したがる人は大体「他人を下にみることで自分がどこか上にいると勘違いしたい」だけだ。実際の所君はそこから一歩も動いていないし、目線を落として満足してる分次の歩きだしが遅くなってる点では一歩下がってるとすら言っていいだろう。

その人の行為が社会一般的に間違っていたとして、それを「馬鹿だね」と判断できるってとてもその人のことを理解してらっしゃる方なんですね、なんて言いたくなる。その時それは馬鹿だったのか？不倫が悪いことでも、死ぬほど追い詰められて縋っていた可能性は？薬だって、逆に自分が絶対にやらないという保証は？想像力を置き去りにするなよ。
悪いことや間違っていることが起きたからといって、その瞬間に100パーセントその人が悪いという結論を下すなんて、なんて残酷なんだろう。随分立派に生きてこられたんですね、なんて皮肉の１つも言いたくなる。

別に話すななんて言わない。僕だって周りにそういう話をされた時、「人生で一番興味がないのでその話題は降らないでください」なんて言わない。一応そこまで不器用な人ではない。多分振られる度に普通にしゃべってる。「やっちゃいましたね〜」とか、「ちょっとアホやな〜」とか。別に言うけど、ぶっちゃけ何も考えてない。その日の夜に何を食べるかの方が1億倍大事だ。どうでもいい話だと思ってるので、ひたすらにどうでもいい相槌をしている。

芸能人の話題ならそんなんでいいのだ、知らない人だし僕の言葉は別に彼らに届かないから、むしろ気楽なのだ。
そういったワイドショー大好き人間共は、身近な他人の話も食い物にする。
親戚の家庭がどうだとか、友達夫婦がどうだとか。ああだこうだ好き放題話す。

一体それの何が自分の幸せに繋がっているんだろうか。

というか繋がってない。絶対。なぜ繋がってると思えるんだろうか。不思議である。もはや未知。
たまに思うのは、何か人の不幸をそうやって話す人間は、例えばその人がその不幸を理由に命を絶ってしまったとしたら、どんな気持ちになるんだろうか。そこまで追い詰められてた人をお茶請け程度に使ったことに関して、何か思うことはあるんだろうか。何もなかったら本当に怖いから、頼むから後味の悪さくらいは感じて欲しいが。前の会社でメンタルをやられた先輩がある日来なくなった時、平気で笑い話にしている人間を見て僕はどうしてもそれが人間には見えなかった。

大体そうやって人の不幸を雑に笑う人間が、バツが悪くなった時に言うことはこうだ。「そんなつもりじゃなかった」

知らねえよ。お前がどんなつもりで言ったかどうかが今関係あるかよ。相手がどう捉えたかの話をしてんだよ。

厳しく言うとどうしてもこういう返事にならざるを得ない。気持ちを踏まえて話をしたかったのであれば、その気持ちも言葉にしとけ。言葉は放った瞬間にもう独り立ちしてて、生みの親はお前だ。産んだ責任は負え。

正直僕が嫌いなのはそうした言葉を放つこと自体ではない。というかこれは程度こそあれ誰しも失敗したことのある話だ。僕だって余計なことを言う。ごめんなさいで生きている。

バツが悪くなった時に尚、自分が軽はずみに悪かったことを認められないことが何より嫌いだ。どうしても自分だけは悪いと思いたくない人、その根性がいけ好かない。

その時君が謝らなきゃいけないのは言葉を放った相手だけじゃない。むしろまずは、自分に謝るべきだ。ちゃんと自分を認めろ。じゃないと取り返しがつかなくなるぞ。負の積み重ねは毒だ。意識して断ち切っていかないといけない。

結局想像力がなかったと言うところに話は帰着するのだ。
何か他人の悪を糾弾する人は、いつだって相手と自分の間には大きな溝があって、その溝を越えて交わることは絶対にないと思っている。
だから好きに石を投げる。「あれとは違う」と安心しきって言葉を投げかける。

溝なんてものはない。

全ては地続きなのだ。あなたはいつだって相手になり得るし、相手もあなたと同じような人間なのだ。そこに想像力を持てないのはむしろ、持たずに済むような幸せな人生を送ってこれたことに感謝するだけの話だ。あなたはたまたま満たされてきた。悪いことをしようと思わないほどには満ち足りて生きてきた。それだけだ。ただそれだけなんだ。

だからせめて、石を投げられるべきが自分だと気づいた時には反省しろよ。
わかってて尚溝を作ろうとするのをやめろ。自分がこちら側だと思い込もうとするのをやめろ。必死で自分に言い聞かせるのをやめろ。

その時のあなた、めちゃくちゃに辛そうだぞ。