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あぁ嘆かわしき年末調整②

(とりあえず年内はChapter10まで土日含めて毎日upします)

前回、年末調整業務は実は税理士の業務だということを書きました。
が、税理士が年末調整の業務を死守しようとか思っているわけでは、たぶんありません。中には業務として重要な業務(収益源として外せない)と考えている方ももちろんいらっしゃるかと思います。ですが、おそらく多くの税理士は「年末調整はもういい、社労士がやりたいんだったらどうぞどうぞ。」という態度になっているのではないかと推測します。

わたしも、ちょっと前までは年末調整は税理士業務だというのに社労士がやるなんてケシカランぐらいに思っていましたが、最近になって、いや、っていうかもう業務としてやりたくない、という気持ちが強くなってきました。(今年はほとんどやりませんが)

というのも、年末調整はともかく複雑になりすぎました。詳細は省きますが、一般の人が理解して扶養控除申告書(マル扶)を書けるとは思いません。

そして、複雑になる前からの話ですが、年末調整になるとどうしたって顧問先従業員のかなりのプライバシー情報に接することとなります。
こどもが30代なのに扶養に入っている…とかいうの、いたたまれないです。申し訳ないけどたいして給料もらってないのに何でこんなに生命保険に加入してるんだろ…とかも、もう思いたくないです。

そういうのもある一方、どうしたって人力勝負な業務になりがち、ということがあります。
年末調整業務を丁寧にやろうとすると、例えば、昨年はあってまだ期限は来ていないから今年も住宅借入金残高証明書があるはずなのにないから取ってきてください(※1)と確認の電話を入れるとか、生命保険についても同様のこととかをやりだすことになります。
そんなことをしているため、12月の税理士事務所(一部社労士事務所)は土日出勤上等になってしまうのです。多くのところで、書類収集と入力と確認をまだまだ人力で行っているはずです。

ただ、これは、純粋に業務としてどこまで携わるかという税理士事務所側の姿勢の問題ではあります。
顧問先が従業員から集めてきた各書類を正だとして、ともかくそれに則って入力していく、というのであればまだいいのかもしれません。去年あった書類が今年は無かったとしてもそういうもの、所得と書く欄に年収ベースと思われる金額を書いてきて、でも所得を書く欄なのだからその通りに捉えて結果配偶者(特別)控除が適用できなくなっても、書いた側の問題…そう割り切ってしまえばいいのかもしれません。所得を書く欄が所得を攪乱させてます。

・・・でもまあ、そうはいかないわけです。配偶者の所得を年収ベースで書いてきた申告書をそのままで年末調整した結果配偶者(特別)控除がなくなり、いつもなら所得税還付になるはずなのにむしろ所得税徴収となって手取りが減り、おかしいなと思った従業員が会社に問い合わせ、会社が税理士事務所に問いあわせ、税理士事務所側としては「書いたとおりにやったまでですよ」といったところで、従業員や会社にとっては「そのくらいわかるだろう、そっちで気を利かせろ」となります。

かくして、そういった事態を恐れる税理士事務所側は、その従業員に確認の徹底を求めるようになり、従業員は増えた業務の残業代が適正に請求できずに…という不幸の連鎖が始まるのです。しわ寄せは税理士事務所で薄給で働く従業員にいく…という構図。業界の暗部がいまここに・・・。

というわけで、いまの年末調整は制度として、もはや限界が来ています。多くの税理士は業務として積極的にはやりたがってはいないと思います。
私見では、源泉徴収制度は残すにしても、マイナンバーカードの普及を見据え、年末調整は廃止し、全員確定申告、でいいと思います。もう20年くらい前に日税連の税制審議会でこれは提言されています(※2)。

世の中は目まぐるしく変わっていますが、年末調整制度は10年後にはどうなっているのでしょうか…

本日の日本人の3割も多分知らない税金とかの話 
─年末調整業務は、実は税理士はそんなにやりたがっていない。

(※1)住宅借入金残高証明書に限っては、税制改正で年末調整に必要な書類からは除かれ、金融機関から直に税務署に情報が渡るようになる予定です。

(※2)平成14年2月18日 給与所得課税のあり方について-平成13年度諮問に対する答申-日本税理士会連合会税制審議会
http://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/nichizeiren/business/taxcouncil/toushin_H13.pdf

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