72. 家父長制といちごシェイクと餃子
ヒジュラ暦1441.3.4 (2019.11.1)
授業をしていると必ず、
「トイレにいっても、いいですか」
「電話に出ても、いいですか」
と学生が言う。
自分が大学生だった時、授業中、トイレに行った記憶はあまりない。もう、それはいよいよ切羽詰まってみたいな感じでしかなかったと思う。そして、自分以外の学生もそれほどトイレに行くのを見た覚えがない。
その記憶からすると、彼らはとてもよくトイレに行く。こればかりは生理的なものなので、しょうがないことかもしれない。
授業中のトイレにも増して多いのは「電話に出る」ということだ。これがほんとに多い。授業がすすみ、こちらもエンジンがかかってきたところで、学生がすっと手をあげるので、“おっ、質問か”と思うと、「電話に出てもいいですか」とスマホを指さす。私はそれまで、話していたことを忘れてしまうことがある。
この電話は多くの場合、家族からかかってきている。家族が用事があって彼らに電話をかけるのだ。よくあるのは「〇〇に車で迎えに来てくれ」的なことのようだ。私としては、授業中は電話に出るべきではないだろうとは思うのだけど、ここの人は家族からの電話は重要で、教員側も止めることはない。
自分が学生の親だったらと想像し、息子が授業を受けてるかもしれないと考えると、電話をかけるのを少し躊躇しそうなものだけど。毎年、こういう状態だということは、一定数の親御さんは、そういうことはあまり考えていないのだろう。
そして、学生に聞いてみると、家族の命令は絶対なのだと言う。特にお父さんや長兄の言うことは聞かないといけないと彼らは言う。学生を見ていると、教師のことを尊敬している感じはする。しかし、怖がる感じはない。さくっとトイレには行くし、成績の交渉もしてくる(笑)
しかし、父親については、尊敬や畏怖の念があるようだ。
先日、授業で、カフェに行ってどんな飲み物を注文するかという話をした。ある学生が父がいる時といない時で違う注文をすると言った。お父さんと一緒の時はアラビックコーヒー。定番だ。
「じゃあ、お父さんがいなかったら?」というと「いちごシェイク」と言った。かっぷくがあって、ひげをしっかり蓄えて、30歳ぐらいにも見えなくはない20歳の男子大学生だ。
私が、「おいしいよねぇ、何でお父さんといる時は頼まないの」と聞いたら、その学生は、「いちごシェイクは女の飲み物で、男らしくない。父に怒られるからです」と、笑って言った。
サウジでは男らしさはとても大事だ。こんな注文でもサウジの男らしさを意識し、お父さんの前では男らしくいようとしているのか。家父長制すごいなと。ちょっと、やりすぎだろうという思いとちょっとかわいそうだなぁという思いがわいた。
しかし、これを書きながら私も大して違わないかもと。
うちの父は匂いに敏感で、家族の人間がニンニク料理を食べて帰ると、嫌そうに「ニンニク食べただろ」と言うのだ。それもあり、私は年に一度の一時帰国中で、豚肉のご法度の国から帰ってきているのも関わらず、好きな餃子を食べるのを遠慮してしまう。ほんとは、毎日でも食べて、一年分の餃子を摂取して帰りたいのに。
いまだに父が怖いのだ。案外、私の方がどっぷり家父長制なのかもしれない。
いつもより、ちょっとよい茶葉や甘味をいただくのに使わせていただきます。よいインプットのおかげで、よいアウトプットができるはずです!