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105. 想像以上に表現豊かなサウジアート

ヒジュラ暦1442.5.24 (2021.1.8)

以前に比べると、宗教的な厳しさが緩くなってきた印象のサウジアラビア。そうは言っても、アートの分野は表現の自由という意味では、まだまだ、難しい部分も多いのかなと思っていた。

先日、Misk Art Instituteという所で開かれていた美術展に行く機会があった。Misk Art Instituteはムハンマド皇太子によって設立されたMiSK Foundationの支援のもと運営されている団体で、サウジアラビアの芸術の支援、サウジアラビアやアラブのアート人材の育成、国際的な文化外交と交流を促進することを目的として2017年に設立されている。

今回、3つの展示をやっていたのだが、どれも、興味深かった。こういうご時世もあってか、バーチャルツアーのコンテンツもあり、家からでも見ることができるので、興味のある方はぜひ、見てほしい。文章の最後にリンクを載せておく。

以下、それぞれの展示から気に入った作品を一つ取り上げて写真と感想を書いていく。
最初に見たのは1階で行われていた"Mukooth(مُكُوث)"というタイトルの展示。展示の説明を見ると、タイトルの"Mukooth(مُكُوث)"というのは英語で”Dwell”と訳されていて、パンデミックの中で多くのアーティストが、これまでと同じように活動できなくなり、その中で彼らは内省し、生成し、アイデアを収集し、実験し、革新し、創造した作品が展示されているということだった。

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Blind Ants, 2020 / Hmoud AlAttawi

人に鎖のように絡みつているのが、3Dプリントで作られたサスライアリと呼ばれるグンタイアリの一種(仲間)で、特徴としては、目が退化していて、ほとんど見えない。また、集団性が強く隊列を作って行動する。それゆえ、一匹が群れから外れて、別の行動をしてしまうと、その後に続くアリはつられて、同じように群れから外れてしまう。もし、危険な方向に一匹が行ってしまうと、他のアリも危険に向かっていくことになる。作者はサスライアリの習性と人間の弱さを重ねて見ている。

アリの集団性に人間の社会性を投影する面白さもあったが、私が感じた印象は、アリが鎖のように人間を縛っているところからだ。画一的な集団(考え)に縛られ、同じ方向に向かってしかいけない窮屈さのようなものを表現しているようにも感じられて、興味深かった。

2階に上がると、IMPRINT: RE-IMAGINING IDENTITY(وسم: الهوية بنظرة مختلفة)という展示があった。コンセプトとしては、アラビア半島の湾岸地域のアイデンティティの複雑性と重層性を、湾岸諸国のアーティストが写真、映像、デジタル作品を通して探るというもの。

どれも面白かったが、個人的に一番、興味をひかれたのが、映像作品のこれ↓

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Schizophrenia,2020 / FAISAL SAMRA

アラブの女性がアラビア語(母語)と英語を交えて、感情を出しながら話している。その切り替えが頻繁に起こるので、アラビア語がわからない私は聴いたり、字幕を追ったり混乱した。話している内容は、アラブの女性が過去と現在・未来において自分たちの育ち方や将来について感じてきたことについて語っている。向かって顔の左半分は二カブと呼ばれる顔を隠す布があり、メイクも湾岸風(過去/伝統)。右半分は顔を出し、メイクも所謂、西洋風(現在)。

この映像を見た時に、ふと思い出したのは、先日、21_21 DESIGN SIGHTで見た「トランスレーションズ展」のドミニク・チェンさんの多言語で話されるメッセージ。言語が一つのメッセージの中で頻繁に変わるのを聞く時、脳内に独特の違和感がある。

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私の身の回りでもサウジの若い世代を見ていると、英語を上手に話す人が多い。特に最近は、海外の主に欧米の文化が浸透してきて、若い世代は、彼らの親の世代とは違い、異文化を吸収しながら成長してきているように感じる。特に女性は、これまで、こちら側から見ると自由が制限されているような印象があったわけだが、彼女たち自身も外の世界にある自由、または自分自身で選択したり、創造したりすることに価値を感じているようなことが表現されている作品だった。

3つ目の展示は Safouh AlNaamani: Preserving Time
写真家のSafouh AlNaamaniが1950~60年代にかけて撮った、ジェッダとマッカの記録。これもバーチャルツアーで見られるので、興味ある方はぜひ。私が気に入った1枚は写真の写真になるけどこれ。

70年前のマスジド・ハラーム(聖なるモスク)からの眺め。当たり前なのだけど、規模が今よりも全然、小さいし、今よりもだいぶん素朴な印象。

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Full view of Hara, 1954

私はマッカにも行ったことがないし、入れないのだけど、サウジでは24時間マスジド・ハラームの様子が放映されているチャンネルがあるので、毎日のようにカーバ神殿や、マスジド・ハラーム(聖なるモスク)をテレビで見ている。現在は広大な敷地に周りを囲むように高い建物がある。2010年でこんな感じ。

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photo by Citizen59

日本のお寺や神社はこんなに拡大していかないだろうに。聖なるモスクはどんどん大きくなっているのが、おもしろい。


いろんなジャンルのアートを見ることができて、大満足だった。私が想像していた以上に表現の自由さがあるように感じた。Misk財団が支援する団体でもあり、現在のサウジアラビアの変化を象徴するような展示をする意図もあるのかなと感じた。

今回、卒業生(男性)に誘われてこの展示に行った。彼らとIMPRINTの展示を見ている時、女性の価値観の変容が表現される作品が多かったのだけど、あまり興味がなさそうな感じで、
「こういうことを考えるのは女性だけです」と言っていた。この展示を解釈する上で、彼らの言葉も材料になるような気がした。


以下、参考リンク

MUKOOTHについての説明
IMPRINTについての説明
バーチャルツアー(1階がMUKOOTH,2階がIMPRINT)
Safouh AlNaamani: Preserving Timeについて
バーチャルツアー

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